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がんセンター

はじめに

私は今、新病院を見上げながら感慨に耽っています。2010年7月12日、和泉市立病院にがんセンターができてから7年8か月経ちました。がんセンター設立当初、私たちの病院は、研修医制度改革の影響を受けて、経営破綻の危機に瀕していました。その厳しい状況のもと、福岡総長や前任の山下事業管理者、故西本前院長をはじめとした全職員が力を合わせ、病院再生を目指し懸命の努力を続けて来ました。またさらに、和泉市や徳洲会グループ、大学病院の力添えを頂くことができ、少しずつ経営改善の目途が立つようになりました。そしてこのたび、和泉市立総合医療センターとして、旧病院は再生を果たしたのです。2018年4月1日、私たちは大阪府下の公立病院で最も老朽化した建物から、最新の現病院に引っ越しました。私はこの場を借り、挨拶に代えて、これからの病院やがんセンターに対する思いを述べたいと思います。

三者幸福:医療は誰のためにあるのでしょうか?
「三者幸福」という言葉を、和泉市立病院着任時のあいさつに書いたことがあります。この考えは私が以前お世話になった、大阪市福祉事業財団すみれ病院の浜田昇先生が提唱しておられたものです。
今の地域医療は、病院スタッフの自己犠牲的な労働で支えられています。もうこれ以上働くと自身の健康を害する、家庭が崩壊する、そう考えて病院を辞める医療スタッフは後を絶ちません。誠実に働けば働くほど身動きが取れなくなり、疲弊していくというのが多くの医療現場の現状です。そのような職場において、もっと働けと職員の尻を叩いても逆効果でないでしょうか。医療従事者が消耗していては良い医療を提供できません。そうでなく、理にかなった経営を行い、働きやすくやりがいのある職場を作り出すことが大切だと思います。そうして職員の気持ちが前向きになり、もっと学ぼう、もっと何かに取り組もうという気持ちが生まれ、良いチームワークが築かれてこそ、より良い医療サービスが生まれると思います。
地域医療再生を目指すうえで重要なのは、患者さんとそこで働くスタッフ一人一人、そして病院の経営者、この三者が幸福になるような環境やシステムを創りだすことだと思います。

日本の医療はこのままで良いのでしょうか?:「疾患」だけをみて「人」を診ない医療システム
今までの医療は、患者さんを治すことを重視するあまり、患者さんの生活や死について考えることを軽んじる傾向がありました。その結果、「疾患」だけに目を向け、「人」を診ることを軽視した医療システムになってしまったのではないかと思われます。臨床データやエビデンスに精通し、高度な医療機器を使いこなせても、目の前の患者さんや家族の抱える悩みを解決できなければ、良い医療とは言えません。もちろん「疾患」に対して先進的科学的な医療を提供することは、当院を含め一定規模以上の病院では当然のことです。しかし、そのような「疾患」に対する医療を提供するだけで患者さんや家族を幸せにすることはできるでしょうか。
患者さんが病気になれば、それに派生して様々な問題が生じます。仕事や家庭で役割を果たせなくなること、医療費の問題、治療の副作用、死の不安や恐怖とも直面せねばなりません。こういった疾患から派生する問題に対して、各診療部門や医療サービスがばらばらに取り組んでいては非効率的です。こういったシステムが現代の医療コスト高騰に繋がっているといっても過言ではありません。「疾患」を診るだけではなく、疾患を持った「人」が必要とするケア・サイクルを提供する医療システムを構築することが、わが国の医療に求められると思います。

がんを持った「人」を診る
今日、進行再発がんという「疾患」を持った同じ「人」であるのに、患者さんは、別々の施設で、別々のスタッフによって、不連続な医療を受けなければなりません。このため、「ギア・チェンジ」とか、「早期からの緩和」、「がん難民」といったような言葉が、がん治療を受ける患者さんに対して使われるようになってきました。なぜこのような不都合が起こるのでしょうか。
それを説明するためにがん治療を整理してみましょう。がん治療は、臨床的に次の3つに大別できるのではないでしょうか
I 治癒を目指す治療
II 治らないが、長生きや新しい治療の開発を目指す治療
III 治らないが、苦痛をとって少しでも人間らしく過ごせるようにする治療
このうちI、IIはがんセンターといわれるところであれば、どこでも積極的に取り組んでいることです。一方、IIIは、一般病院や緩和ケアを専門とする病院で受けることが多いと思います。今日のがん治療において、このように前者のI、IIと後者のIIIは、別の医療行為として捉えられています。
さらにこれらの医療行為を「病態」という概念で整理してみましょう。この「病態」という言葉は通常医学的に用いられる病態という言葉と異なります。この「病態」、それと次に出てくる「ケア・サイクル」は、マイケル・E・ポーターというハーバード大学の経営学の先生がRedefining Health Care(1)という本(論文)の中で定義した言葉です。この論文のなかでポーターは、目の前で問題となっている疾患だけでなく、社会的問題や精神面の問題、さらにその他疾患から派生するその他の問題も含めた概念を「病態」と定義しています。そして医療システムを構築する場合、一つの「病態」に対応した「ケア・サイクル」を想定し、それに対する計画(「バリュー・チェーン」)を立案するべきであると彼は述べています。
私たちは彼の考えに基づいてがん治療を見直してみました。がんという「疾患」中心に考えると、一見がん治療のIとIIは同じように見えるかもしれません。しかしがんを持った「人」を中心に考えると、治療して治るIと治らないIIは全く別の病態です。またさらに、がんという「疾患」だけでなく、がんを持った「人」を診る医療の観点からは、IとIIではなく、むしろIIとIIIを同じ「ケア・サイクル」が生じる同じ病態と捉えるべきです。すなわち、IIに対する化学療法とIIIに対する緩和医療は、同じ治療システム内で行われるべきものだと考えます。従って、進行再発がんの治療を行う施設において、緩和ケア病棟や在宅医療システムの整備は必要不可欠であるといえます。しかしながら、がんの治療を行っているがんセンターで、緩和ケア病棟や在宅療養システムの整備に力を入れている施設は我が国でどれだけあるのでしょうか。
現行のがん医療は、違う病態であるIとIIを同じ医療システムで行い、同じ病態であるIIとIIIを別の医療システムで行っています。これが不連続ながん治療を生み出している理由であると考えられます。

生ばかりでなく死とも向き合う
生活スタイルの変化により、今日では自宅で家族を看取ることが困難になってきました。現代において、看取りの場は家ではなく病院である、というのは多くの人が認めるところではないでしょうか。また、平和な時代が続き、医学が進歩し、死が身近なものではなくなり、死について考える機会が少なくなってきました。このため家族の誰かが、がんのような死と直結する病気であると診断されたとき、本人ばかりでなく家族も戸惑いと大きな不安を抱きます。したがって、こういった患者さんや家族が、できるだけ今まで通り仕事や家事を続けることができるよう支援し、治療が奏効しない場合を含め、苦痛に怯えることなく最期まで人間らしく過ごせるよう、医療や行政はシステムの構築を行う必要があると思います。そしてがんセンターは、その治療モデルを提供せねばなりません。目の前の「疾患」を治す取り組みだけでなく、治療を行うための環境やシステムの提供も行わねば、がんを持った「人」を診るがんセンターとは言えないでしょう。

緩和ケア病棟:がん患者さんがよりよく生きていくための「もう一つの家」
当センターでは、がんを持った「人」を診る、ことをミッション・ステートメントとし、治療システムを構築しています。このシステムのもとでは、緩和ケア病棟は必須の施設です。私たちは緩和ケア病棟を、がん治療を受ける「人」のための「もう一つの家」と考えて運営しています。
「もう一つの家」とはどのようなものでしょうか。私たちは2つの役割を考えています。一つ目は、自宅での看取りが難しい場合の終末期療養環境としての役割です。今日では、居住環境やマン・パワーの事情が以前とは異なり、在宅でのケアが困難になってきています。そういった患者さんやご家族に終末期療養環境を提供する必要があります。これは緩和ケア病棟が本来果たすべき役割であり、当センターにおいても同様です。しかしそのような看取りを行う場としての役割だけではなく、当センターの緩和ケア病棟はもう一つの重要な役割を果たしています。その二つ目の役割は、不安に思われている患者さんの気持ちに寄り添いつつ、抗がん剤等による治療で生じる苦痛の緩和を行うことです。
これから治療を受ける患者さんは、がんと診断され、これから自分はどのようになっていくのだろうと、この上ない不安を持っておられると思います。現存のがん治療システムでは、そういった患者さんの心理面への対応は不十分であると思います。がんの告知も、副作用の強い治療の話も、外来で主治医から受けるだけで、そのショックを受け止めて相談に乗れるのは医療には素人である家族や友人のみです。治療内容を理解した上での治療を受けることのできる患者さんはどれだけいらっしゃるでしょう。医療機関はこのことについて適切に対応する必要があると思います。
私たちのがんセンターでは、化学療法や放射線治療を行っている患者さんのケアも緩和ケア病棟で行っています。このため、看取りのケースだけを対象とするホスピスと違い、当センターの緩和ケア病棟では元気になって退院される患者さんが多くいらっしゃいます。当センターでは、がんを持った「人」の「もう一つの家」として、より良く生きていく場となるよう、一人一人のスタッフが学び、考え、行動しています。

「日本で一番小さな、しかし患者にとって最適のがんセンター」から「日本で一番患者にとって最適ながんセンター」へ:がんを持った「人」を診るシステム
当がんセンターは、福岡総長を含めわずか3人の腫瘍内科医によって立ち上げられました。このため当初は「日本で一番小さな、しかし患者にとって最適のがんセンター」をキャッチ・フレーズとしていました。しかし新病院移転に伴い、センターの陣容も大きく進化しました。各科の案内をご覧頂けばお判りいただけますように、最先端の診断装置や治療装置を備え、外来化学療法室、がんや血液疾患治療に対応した病棟といった施設も充実しています。それにもまして当院には、がん薬物療法専門医資格をもつ腫瘍内科医、血液がん治療を行う血液内科医、放射線治療を行う放射線治療科医、手術治療を担う外科系各科、専門資格を有する薬剤師や看護師ならびに事務職員と充実したスタッフが揃っています。このような医療チームが、最先端の標準的治療や患者さんの立場に立った看護、その他がん治療に特化した医療サービスを患者さんに提供します。
しかし、がんという目の前の「疾患」を診ることだけが、当センターの強みではありません。上記のような設備やスタッフに加え、がんを持った「人」を診るシステムを構築しているところに、他の施設との違いと強みがあります。がん患者さんが必要とする医療はどのようなものであるのだろうかと私たちは考え、そのような医療を行うためのシステムの構築に、開設当初から取り組んできたのです。

多職種カンファレンス、キャンサー・ボード:チーム医療
当センターでは、初診から治癒ないしは看取りに至るまで一貫して、腫瘍内科医を中心とするチームが診療を行います。従来日本のがん治療は外科医が中心となって来ました。以前のように手術治療以外に有効な手立てのなかった時代には、これは当然のことかもしれません。そしてこれが、別の病態である「 I 治癒を目指す治療」と「 II 治らないが、長生きや新しい治療の開発を目指す治療」を、先述のように同じシステム内で行うことになった理由の一つだと思います。
しかし、がんの薬物療法、緩和医療が進歩した今日では、そのパラダイムも進化しました。当センターでは、「 II 治らないが、長生きや新しい治療の開発を目指す治療」と「 III 治らないが、苦痛をとって少しでも人間らしく過ごせるようにする治療」とを同じ病態であると考えます。このため、抗がん剤治療を本来専門としている腫瘍内科医が中心となってこれらの病態に対応し、緩和医療も行います。もちろん腫瘍内科医は抗がん剤のみならず緩和医療に用いられる薬物についても精通し、さらに難しい症例については専門科と相談して治療に当たります。そしてこのように腫瘍内科医を中心とするチームにおいて、医師だけでなく看護師や薬剤師、事務職員も一緒になって治療に取り組みます。
チーム医療の例として挙げられるのが、毎朝行われる多職種カンファレンスと、毎週行われるキャンサー・ボードです。私たちは先程述べたチームで、毎朝、患者さんの問題点や治療方針についてカンファレンスを行っています。さらに毎週、センターの全診療科を交えてキャンサー・ボードを行っています。これらの取り組みにより、腫瘍内科医を中心に、密接な組織横断的な連携がはかられ、抗がん剤治療のみならず、疼痛コントロールの薬剤、放射線治療、手術療法の適応、各治療併用を含めた包括的な治療が可能になっています。

あんしんカード、体験入院:地域医療連携、救急医療
私たちは治療について責任を持つ証として「あんしんカード」というものを発行しています。これは、そのカードを持っている患者さんの診療について主科ならびに主治医が責任を持つことを取り決めたものです。診察券と同じではないかと思われるかもしれませんので、普通の診察券との違いを含め、説明を付け加えさせて頂きます。
診察券のみでの対応の場合、患者さんが救急で来院し入院が必要となった場合、医療者側としてもどの科が責任を持つのか不明瞭であり、患者さんもどの先生が診てくれるのか不安です。私たちは、進行がんという「病態」を持つかかりつけの患者さんに対しては、一般の何でも診る救急では不十分だと思っています。一方、「あんしんカード」の場合は、「病態」に関係する全ての出来事に私たちのセンターが責任をもって対応します。「病態」が明らかなので迅速に対応してもらえ、患者さんも安心です。もしこのカードを持っている患者さんが緊急で受診された場合、365日24時間いつでも当院で診療を受け付けます。日中であれば、主科である腫瘍内科で診察し、時間外には主治医ではなく当直医が対応します。いずれにせよ、入院された場合には「あんしんカード」を発行した主科の医師が主治医となります。
また「あんしんカード」は地域医療連携において大きな意味を持ちます。他のがんセンターや大学病院で治療を受けている患者さんが在宅療養に移行した場合、今まで治療を受けていた病院との関係が切れてしまうことが良くあります。このため、患者さんの入院治療が必要になったとき、在宅医の先生は入院先を探す必要が生じます。いざというときの入院先が保証されなければ、患者さんも安心して在宅療養を受けることができません。一方、当センターの腫瘍内科では、カードを持っている患者さんが在宅医療に移行しても、入院が必要になれば、カードを発行した主科・主治医が責任を持って入院を引き受け、治療を行います。従って、患者さんも在宅医の先生も安心して在宅療養を続けることができます。
このように「あんしんカード」での対応は、診察券での対応に比べ、優れています。ただ、このカードはどなたにでも発行するわけではありません。お互いの信頼関係を築くために、当院腫瘍内科初診間もない患者さんには一度緩和ケア病棟に入院して頂くようにしています。これを「体験入院」といいます。この体験入院の一番の目的は、入院期間にお互いのことを良く知ることです。「疾患」について知るだけでしたら、検査データと外来での問診だけでも良いかも知れません。しかし疾患を持った「人」に対応するためには、その人が心理面や生活面でどのような問題を抱えているかを知ることが大切です。その上でその人に最適な治療プランは何か、お互いに話し合って決めることが望ましいと思います。そのためには入院した上で時間をかけて、医師だけでなく看護師をはじめとしたスタッフとも話し合う機会を持つべきであると、私たちは考えています。そのようにしてお互いを良く知った証として、退院時に「あんしんカード」を発行し、今後の治療を安心して受けて頂けるようにします。
「体験入院」はまた別の効果も生み出します。治療初期に緩和ケア病棟に入院して頂くことで、緩和ケア病棟に対する偏ったイメージを見直すことができます。世間一般には、緩和ケア病棟というと、ホスピスのように看取りの場であるかのように思われています。しかし、私たちは緩和ケア病棟を単なる看取りの場とは考えていません。前述したようにがん治療を行っている患者さんの「もうひとつの家」だと、私たちは考えています。

まとめ
以上のように私たちは進行再発がんを一つの病態であると捉えて、 「(2)治らないが、長生きや新しい治療の開発を目指す治療」、「(3)治らないが、苦痛をとって少しでも人間らしく過ごせるようにする治療」を一つの「ケア・サイクル」と捉え、それに対応するようにがんケアのシステムをつくりました。私たちのがんセンターには、「がん治療と緩和医療のつなぎ目」や「ギア・チェンジ」などありません。「がん難民」という言葉とも無縁です。当センターは、「日本で一番小さな、しかし患者にとって最適のがんセンター」から「一番小さな」がとれましたが、「日本で一番患者にとって最適ながんセンター」であり続けたいと思っています。
(1) Michael E. Porter, Elizabeth Olmsted Teisberg: Redefining Health Care: creating value-based competition on results. Boston, Massachusetts: Harvard Business Review Press,2006.

和泉市立総合医療センター がんセンター長
佃 博

診療体制

スタッフ紹介

役職 担当医名 診療科
がんセンター長 佃 博 腫瘍内科
副がんセンター長 多田 卓仁
川口 いずみ
放射線科
看護部

診療科

詳腫瘍内科、緩和ケア科、放射線科(治療部門)、外科、婦人科、泌尿器科

がん診療連携部署

放射線科(診断部門)、呼吸器内科、消化器内科、地域医療連携室

設備・支援体制

詳外来化学療法室、看護部、薬剤部、緩和ケア病棟(いずみ)、キャンサーボード、
がん患者相談支援室、セカンドオピニオン、院内がん登録、臨床試験・治験(進行中の試験)
がんセンター 緩和ケア セカンドオピニオン 機能評価認定 大阪府がん診療拠点病院 地域連携室だより 医療安全管理マニュアル 地域医療連携室 和泉市立総合医療センター 広報誌 健やかいずみ