がんゲノム医療推進委員会

がんゲノム医療について

がんゲノム医療は、次世代シーケンサー(NGS)という最新の装置を用いて、個々の患者さんのがん組織から多数(100以上)の遺伝子を同時に調べ(遺伝子パネル検査という)、一人ひとりの患者さんのがんに関連している遺伝子の変化を検出し、それぞれの患者さんに合わせた治療(分子標的治療)を行うことです。遺伝子パネル検査は、がんゲノム医療中核病院、がんゲノム医療拠点病院、がんゲノム医療連携病院など”がんゲノム医療関連病院”で実施されます。

和泉市立総合医療センターは、現時点でこれらの”がんゲノム医療関連病院”には指定されていませんが、がんゲノム医療の必要な患者さん、あるいはがんゲノム医療を希望される患者さんには、適切に対応できるよう体制を整えております。

1 がんの標準治療とゲノム医療について

1)標準治療

がんの標準治療には、手術、放射線治療、薬物療法(化学療法)があり、現在もがんの発生部位、進行度、患者さんの病状に即してこれらの治療が実施されています。

近年、肺がん、乳がん、大腸がんなどある種のがんでは、がん組織の遺伝子を調べて(遺伝子解析)、遺伝子の変化のある場合には、その遺伝子を標的とした薬(分子標的薬)で治療する分子標的治療は、すでに標準治療として広く行われています。標準治療の選択の目的で行われる「がん遺伝子解析」は、ゲノム医療の目的で行われる「がん遺伝子パネル検査」とは分けています。また、最近では、免疫チェックポイント阻害剤による免疫治療も標準治療になっています。

2)がんゲノム医療

固形がん(白血病などの造血器がんを除く)で標準治療が終了した、あるいは標準治療がないがん患者(原発不明がんや希少がんなど)に対して、生検や手術で採られた腫瘍組織を用いて、大量のゲノムの情報を読み取る「次世代シークエンサー」という装置によって1回の検査で多数の遺伝子を同時に調べる遺伝子パネル検査を行います。この検査で遺伝子の変化が同定され、それに適応される薬剤があれば臨床治試験などで治療が可能となります。

ただし、この方法で治療薬が見つかるのは10~20%程度と言われています。しかし、治療法のない患者さんにとっては、大きなメリットとなります。 遺伝子パネル検査は、2019年6月に保険診療として承認されました。

図1 がんの標準治療とゲノム医療(国立がん研究センターがん情報サービスより引用)

  1. 標準治療とは、臨床試験などによって、現在利用できる最良の治療であることが示され、一般的な患者さんに行うことが推奨される治療のことで、科学的根拠に基づいた治療のことです。一方、最先端の治療は、開発中の試験的な治療として、その効果や副作用などを調べる臨床試験で評価されている治療で、標準治療より優れていることが証明されてはじめて標準治療となります。
  2. 肺がん、乳がんなどは、すでに遺伝子の変化の検査を行い、それに基づいた分子標的治療が標準治療となっており、がんゲノム医療とは区別されています。

2 ゲノム医療の対象となる患者さん

原発不明がんや希少がん(肉腫など)など標準治療が確立していないがんにおいては、治療の最初の段階から、標準治療のあるがんでは、標準治療が終了した、あいは終了する見込みの患者さんがゲノム医療の対象になります。患者さん自身では分かり難いと思いますので主治医に相談するか、または「がん患者相談支援センター」でご相談ください。

3 和泉市立総合医療センターにおける対応

1)ゲノム医療への対応

ゲノム医療として実施される遺伝子パネル検査は、すでに保険診療で行うことが可能となっています。しかし、現在、実施可能な病院は、がんゲノム医療中核拠点病院、がんゲノム医療拠点病院、がんゲノム医療連携病院に限られており、当センターでは実施することは出来ません。そこで、対象となるがん患者さんについては、がんゲノム医療拠点病院である近畿大学病院に依頼することにしています。担当医からゲノム医療の対象になることが示され、あるいは患者さんが希望された場合には、当センターのがんゲノム医療検討委員会で適応となることを評価し、同意を得た上で近畿大学病院ゲノムセンターに紹介させていただきます。

対象となるのは、前項で示したように標準治療が終了するなどの患者さんに限定されています。そのような患者さんには、担当医からお知らせ致しますが、可能性などに関しましては、担当医または“がん患者相談支援センターにご相談ください。 遺伝子パネル検査で特定の遺伝子の変化があった場合には、解析結果について複数の専門家で構成される委員会(エキスパートパネル)によって、遺伝子の変化に効果が期待できる薬があるかどうか検討されます。効果が期待できる薬がある場合には、臨床試験などを含めてその薬の使用を検討されます(図2)。効果が期待できる薬がない場合には、他の治療を検討します。また、遺伝子パネル検査を実施しても遺伝子の変化がなかった場合にも他の治療を検討します。実際、効果が期待できる薬がある確率は、現在のところは10~20%とされています。

2)遺伝性腫瘍への対応

がん遺伝子パネル検査では、多くの遺伝子を調べるため、個別化治療につながる可能性のある変化とは別に、生まれつきがんになりやすい遺伝子の変化をもっていることがわかる場合があり、これを二次的所見といいます。この場合、ご本人やご家族の今後のがんの早期発見に繋がる可能性もありますが、将来の健康に対する不安が生じる可能性もあります。二次的所見が見つかった場合でもその結果を聞かないという選択もできます。結果を聞く場合には、十分な理解ができるような説明が必要です。近畿大学病院ゲノム医療センターにおいては、遺伝カウンセリングなど適切な対応がとられますが、近畿大学病院からの指示または患者さん自身の希望があれば、当センターの「がん遺伝子診療外来」でも対応することが可能です。

3)病理検体の取り扱い

当センターにおいては、ゲノム医療(遺伝子パネル検査)の申請にあたって、日本病理学会で示された「ゲノム診療用病理組織検体取扱い規程」に沿って管理・保存された病理検体を用いることにしています。病理検体取り扱いの詳細に関しては、取り扱いマニュアルをご参照ください。

取り扱い規定の概略

  1. 手術により切除された組織は、摘出後は速やかに冷蔵庫など4℃下で保管し、1時間以内、遅くとも3時間以内に固定を行う。手術検体では,切り出しまでに充分な固定が行える程度の厚みまで固定前に適切に入割する。
  2. 内視鏡的に切除等された組織など、比較的小型の組織については、速やかに固定液に浸漬し固定を行う。
  3. 生検により採取された組織は,速やかに固定液に浸漬し固定を行う。
  4. 細胞検体のホルマリン固定パラフィン包埋化(セルブロック)は使用しない。
  5. ホルマリン固定液は、中性緩衝ホルマリン溶液、濃度は10%(3.7% ホルムアルデヒド)を用いる。
  6. 組織検体(手術検体,内視鏡的に切除された検体,生検検体)は、6 〜48 時間の固定を行う。気管支腔内超音波断層法(EBUS)等を用いて生検採取される微小な組織検体は、固定時間の短縮(6〜24時間)することが望ましい。
  7. ホルマリン固定に使用する固定液の容量は、組織量に対し10倍量の固定液を用い、処理温度は室温でよい。
  8. 硬組織を含む検体をゲノム診断に供する場合は、酸脱灰を回避し、EDTA 脱灰を行う。
  9. FFPEブロックの保管は室温でよいが,多湿を避け冷暗所が望ましい。ゲノム診断を目的として作製されたFFPE ブロックは冷蔵下で保存する。
  10. 時間が経過した未染色FFPE標本をゲノム診断には使用しない。

以上、和泉市立総合医療センターでは、近畿大学病院がんゲノム医療センターの全面的な協力を得て、標準治療が終了した、あるいは標準治療がないような患者さんを対象に、遺伝子パネル検査を実施し、個々の患者さんのがんに効果が期待される治療薬をみつける”がんゲノム医療”を行う体制を整えています。治療法のない患者さんにとっては大きなメリットとなると思われます。詳しいことを知りたい方は、遠慮なく担当医、またはがん患者相談支援センターでご相談下さい。

  1. 当センターでのゲノム医療外来は、腫瘍内科外来(担当:近畿大学腫瘍内科からの派遣医師)で実施する。
  2. 近畿大学病院ゲノムセンターを紹介し、遺伝子パネル検査の適応のある患者さんでは、病理組織検体を送付し遺伝子パネル検査が実施されます。
  3. 遺伝子パネル検査を実施してから結果が判明し、エキスパートパネルで対応する薬剤の有無などの検討結果が報告されるまでに約2か月を要すると言われています。
  4. 遺伝子の変化が有り、効果が期待される薬剤ありとなるのは、パネル検査実施患者の10~20%程度とされています。

がんゲノム医療対応マニュアル

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