腫瘍内科

原発不明がん

がんが発生した臓器を原発部位といい、そのがんを原発巣といいます。一方、原発巣から離れた部位で進行したがんを転移巣といいます。

例えば肺にがんがあっても、大腸のがんが肺に転移した場合には肺がんではなく大腸がんの肺転移と診断されます。(大腸のがんが原発巣、肺のがんが転移巣となります)転移巣は原発巣の性質を示します。

原発不明がんとは、画像検査や内視鏡検査で転移巣が先に見つかり、下記に示す各種検査を行っても原発巣がわからないが、病理検査で転移巣と判明した悪性腫瘍のことです。

原発不明がんの頻度は全ての悪性腫瘍のうち1~5%とされています。

症状・特徴

病変の場所により症状が異なります。リンパ節の腫れ、胸水、腹水、肺腫瘍や肝腫瘍による症状(せき、呼吸困難感、腹部膨満感、むくみ、痛みなど)、骨転移の症状(痛み、しびれ、麻痺など)があらわれることがあります。

病理解剖により判明する原発部位として多いのは膵臓、胆道、肺と報告されています。

がんはすでに転移しているので、原発巣が判明していなくても原発不明がんとして治療を行います。治療は、手術や放射線治療などで根治を目指す時期を過ぎていること多く、その場合には症状を和らげながら経過を注意深くみたり、全身状態に合わせて全身療法(薬物療法)が選択されたりします。なかには治療経過中に原発巣が判明する場合もあり、その時は原発部位に準じた治療を行います。

診断方法

がんの診断、原発巣の絞り込みのため、まずは生検による組織型の診断を行います(病理検査・病理診断)。組織像や免疫組織化学(それぞれの臓器に特異的な抗体を用いて、抗原となるがん組織を染色する方法)による原発巣の検索が行われます。また、体の状態、病変の状態や広がりを調べるために、腫瘍マーカーを含む血液検査や尿検査、超音波(エコー)検査、胸部X線検査、胸腹部骨盤CT・MRIなどの画像検査、必要に応じて乳房、婦人科、泌尿器科領域の診察や内視鏡検査(胃カメラや大腸カメラ)、FDG-PET検査などを行います。

1 細胞診・組織診(病理検査)

細胞診:痰、尿、胸水・腹水などにがん細胞が含まれていないかどうかを顕微鏡で調べる検査です。がん細胞が含まれていたらその細胞の種類や性質なども調べます。胸水・腹水などの場合では、超音波(エコー)検査を用いて安全に針を刺せる部位を確認し、局所麻酔を行いながら注射針ほどの太さの針で水を抜く処置を行い、検査に提出します。

組織診:原発巣として疑わしい部分から組織を採取し、顕微鏡検査で調べることです。採取する場所によっては局所麻酔を行い、病変の組織を採取します。外科的に手術で組織を採取することもあります。調べられる組織の量が多いので細胞診より詳しい検査が可能です。特徴的な組織像や免疫組織化学検査から原発巣が推定できることがあります。

表1.腫瘍組織型による分類

上皮性腫瘍
(皮膚、粘膜などの表面から発生した腫瘍)
腺がん、扁平上皮がん、低分化がん、未分化がん、神経内分泌腫瘍・がんなど
非上皮性腫瘍
(筋肉、脂肪、血管、骨、軟骨、血液、リンパから発生した腫瘍)
肉腫、悪性リンパ腫、悪性黒色腫など
胚細胞腫瘍
(卵子や精子のもとになる細胞から発生した腫瘍)
セミノーマ、胎児性がん、卵黄嚢腫瘍、絨毛がんなど

2 画像検査

がんの広がりや、他にリンパ節、肺、骨、肝臓などへ転移がないかどうかを調べるために、胸部X線検査のほかCT、MRIなどの画像検査を行います。FDG-PET検査はCTやMRIを含む従来の検査で原発巣が特定できなかった時に有用な場合があります。

3 腫瘍マーカーを含む血液生化学検査

腫瘍マーカーとは腫瘍細胞から出る特徴的な物質が血液から検出されるものです。腫瘍があっても高値を示さないこともあるため疑われるがんの場所がわからないことも多く、不要に繰り返し検査することは推奨されません。しかし、胚細胞腫瘍、甲状腺がん、前立腺がん、卵巣がんなどの限られたがんの検索には腫瘍マーカーも有用です。胚細胞腫瘍ではAFPやβHCG、前立腺がんではPSA、卵巣がんではCA125、甲状腺がんではTg(サイログロブリン)が有用とされる腫瘍マーカーになります。

治療方法

がんは通常、肺がんなら肺がんに対する治療というように、原発臓器ごとに現時点での最良の治療とされる標準治療が異なります。原発不明がんでは、初めに出てきた症状や各検査結果をもとに原発部位を予想していきます。原発巣の検索(特に病理組織像や免疫組織化学による原発巣の検索)で十分に診断を行い、もっとも可能性高い原発部位に準じた治療を行います。原発部位の特定ができない場合には、薬物療法や緩和ケアをしながら経過観察を行います。

治療によって高い効果を見込むことができる予後良好ながんがある一方、まれながんなどは標準治療が定まっていないものも多く、転移・進行している場合には治療の効果が期待できないものがあります。そのため、治療自体による負担を考えて、あえて治療をしないというのも選択肢の一つとなります。別の選択肢として、よりよい治療を目指して新しい治療の試みが行われる臨床試験または治験に参加するという選択肢もあります。

図1.原発不明がんの病理診断と治療

国立がん研究センター がん情報サービス 各種がん 165 原発不明がん より引用

1 腺がんと診断された場合

原発不明がんの60-70%を占め、肺がん、膵臓がん、胆道がん、腎細胞がんがその3分の2を占めます。

1) 女性、腋窩リンパ節腫大(腫れ)のみで診断された場合
乳がんの可能性が疑われます。詳しい病理検査や腫瘍マーカーなどの検査結果によって乳がんの可能性が最も高い場合は乳がんに準じた治療を行います。手術や放射線治療、抗がん剤による化学療法やホルモン療法(抗エストロゲン療法)を行います。

2) 女性、腹膜絵の転移のみで診断された場合
腫瘍マーカーのCA125が高値を示し、詳しい病理検査などで卵巣がんの可能性が最も高い場合、婦人科医による十分な検査や腹部骨盤CTなどで卵巣に異常がなくても、卵巣がんに準じて手術や抗がん剤による化学療法を行います。

3) 男性、骨への転移のみで診断された場合
腫瘍マーカーであるPSAが高値(特に10ng/ml以上)を示す場合には前立腺がんが強く疑われます。前立腺生検または骨生検による病理検査で診断が得られれば前立腺がんの標準治療を行いますが、診断が得られない場合でも前立腺がんに準じてホルモン療法(抗アンドロゲン療法)、化学療法を行います。

4) 原発部位の特定が難しい場合
腺がんと診断されたものの、原発部位の特定が難しい場合標準治療とされるものはありません。多くの場合はすでにがんが広がっており、手術や放射線治療で治すことはできません。がんの進行を抑える目的の抗がん剤治療が治療選択肢の一つなります。抗がん剤の副作用の負担を考えて、あえて治療をせずに注意深く経過観察しながら緩和ケアを行うということも選択肢となり、体調とがんの状態に応じて検討します。緩和ケアの一環として手術や放射線治療を行うこともあります。状況によっては臨床試験などへの参加も考えられます。

2 扁平上皮がんと診断された場合

原発不明がんの約5%を占めます。原発巣の特定が難しい場合、腺がんの場合と同様、抗がん剤による化学療法や緩和ケアをしながら経過観察、臨床試験などへの参加について体調とがんの状態に応じて検討します。

1) 頚部(首)のリンパ節腫大(腫れ)のみで診断された場合
原発部位として頭頚部がん(耳鼻科領域のがん)の可能性が高い場合には、頭頚部がんの標準治療に準じて手術や放射線治療などを行います。抗がん剤と組み合わせて治療を行うこともあります。

2) 鼡径リンパ節の腫大(腫れ)のみで診断された場合
原発部位として、肛門から陰部のがん(皮膚がん、直腸肛門がん、泌尿器科がん、婦人科がん)が疑われます。これらのがんの精査を十分に行っても原発の部位が特定できない場合には、局所(ごく限られた部分のみ)のがんを抑える治療として手術(リンパ節郭清)または根治的な放射線治療を行います。

3 神経内分泌腫瘍・神経内分泌がんと診断された場合

原発不明がんの約3~4%を占めます。単発病変であれば手術や放射線治療などの局所治療が行われますが、病変が複数ある場合や多臓器に広がっている場合には悪性度に応じて全身療法を行います。

1) 神経内分泌腫瘍(低悪性度)
以前はカルチノイドや膵島細胞腫瘍(islet cell tumor)といわれていたものです。比較的ゆっくり進行することが多く、治療をするかどうかや治療の時期についても十分検討が必要です。腫瘍がホルモンを過剰に分泌することによる症状がみられる場合には、症状を緩和するためにソマトスタチンアナログの投与が有効です。

2) 神経内分泌がん(抗悪性度)
小細胞肺がんに近い経過をたどるため、小細胞肺癌に準じた化学療法を行います。

4 低分化がん・未分化がんと診断された場合

原発不明がんの約30%を占めます。治療によって治る可能性がある精巣(睾丸)腫瘍や卵巣胚細胞腫瘍である可能性があり、組織の免疫染色や腫瘍マーカーの検査など、診断に有用な検査をしっかり行うことが重要です。

原発部位の特定が難しい場合、腺がんや扁平上皮がんの場合と同様に抗がん剤による化学療法や緩和ケアをしながら経過観察、臨床試験などへの参加について体調とがんの状態に応じて検討します。

1) 縦隔・後腹膜など体の中心線上に病変がある場合
男性で腫瘍マーカーであるAFPやβHCGが高値を示す場合、睾丸の胚細胞腫瘍に準じて多剤併用化学療法を、女性でAFPやβHCGが高値の場合は卵巣の胚細胞腫瘍に準じて多剤併用化学療法を行います。

当院ならではの取り組み

当院では様々ながんの専門スタッフと連携して、原発不明がんの診断から治療まで一貫した医療を提供しております。

X線検査、CT検査、MRI検査、内視鏡検査、FDG-PET検査(他院に依頼)などの画像診断と免疫染色や遺伝子診断を含む病理学的検討に基づく診断を行い、週1回の内科・外科・腫瘍内科・放射線科・薬剤師・看護師などが参加するキャンサーボードにて原発巣の推定及び治療方針を検討し、患者さんの体の状態や治療に対する希望を考慮し治療方針を決定します。

原発巣が推定できるがんに関しては、推定されたがんの現在最も有効とされている標準治療を外科、放射線科、腫瘍内科で連携し行います。

各種検査を行っても、原発巣が推定できない原発不明がんに関しては標準治療とされる治療はありませんが、腫瘍内科が中心となり薬物療法、症状緩和のための放射線治療など患者さん1人1人に合った治療を行います。

希少がんでもある原発不明がんに対しては近隣施設との連携も重要であり、近隣施設から紹介患者さんを受け入れるだけでなく、遺伝子パネル検査や臨床試験や治験などへの参加を希望される患者さんには実施施設へご紹介します。