甲状腺疾患センター
内分泌・糖尿病内科(内科的診断/治療担当)、耳鼻いんこう科(外科的治療担当)は、それぞれ独立して、これまで甲状腺疾患の診療に当たって参りました。
病理診断は、病理学的な方法を用いて、病気の性質を判定/診断する役割を担っています。正確に診断することにより、初めて最適の医療を実現することができます。病理診断は、病理学的な方法を用いて、自然に治癒する病気か、内科的治療の必要な病気か、外科治療の必要な病気かなどを判定する役割を担っています。
例えば、癌を疑う病変があった時、癌であることを組織学的に確かめてから、外科治療(手術)に踏み切ります。癌でないことが判明すれば、外科治療は行わず、内科的な治療を行います。癌を確かめないでがん治療を行った場合どのようなことが起こるでしょうか?術後に『癌でなくてよかったですね!』と言われる患者さまができることになります。
癌の有無を病理診断で確かめることにより、避けることの可能な治療合併症で苦しむ患者さまをなくすこと、患者さまにとって最適の医療を実現する役割を、病理医は担っています。
甲状腺疾患センターで病理診断を担当する覚道は、甲状腺癌の一部に、大変予後の良い(癌治療の必要のない)腫瘍があることを明らかとしました。またこれらの腫瘍を、癌から境界腫瘍に分類変更を提案し、WHOの甲状腺腫瘍分類に採用されました。この分類変更は甲状腺癌診療に大きな変革(低リスクの癌に不必要な過剰治療の抑制)を生み出したと自負しています。
これから治療を受ける患者のためにエッセイ『甲状腺癌はどんな病気?-医師が患者になった時-』を発表しました。ご覧ください。
また甲状腺の炎症性疾患である橋本病にも、急速に進行し、甲状腺機能低下症の治療を必要とするタイプ(IgG4甲状腺炎)と、ほとんど治療の必要のない予後良好なものとの区別が可能であることを発見いたしました。これらの詳細な診断は、患者さまの個別化医療に、最適の医療の選択に役立つと信じて病理業務に取り組んでいます。
甲状腺癌は、ほとんど良性で取れば治るものから、稀に再発転移し、長期に患者を苦しめるものまであり、低悪性度の癌での過剰診断/過剰治療が、近年問題とされています。低悪性度の腫瘍に対しては、Active Surveillance(手術しない治療)が選択肢として日本や米国の臨床ガイドラインに加えられました。そのため手術の適応決定には大きな変化が生まれ、これを正確に判断することが重要となりました。病理診断科は癌の診断・癌の再発リスク予測において重要な役割を担っています。手術適応の有無の決定には、3科合同でのカンファレンスの役割がより重要なものとなりました。手術が必要な症例については頭頸部外科専門医による外科治療を迅速に行います。甲状腺癌の予後は、他の癌と異なり一般に大変良好です。癌のない対象人口よりも長生きができる癌で、恐れる必要はありません。しかし、そのためには10-20年の術後経過観察、甲状腺ホルモン補充療法などの継続した診療が重要です。これを内科部門が担当します。手術を急ぐ必要のない症例でもまた、内科部門での厳重な経過観察が行われます。治療方針を共有し、各科で連携することで、甲状腺疾患全体をカバーし、迅速な治療介入を実現する甲状腺疾患センターを目指します。
甲状腺疾患センター センター長 覚道 健一
概要
当科の役割としては外科的治療の担当です。手術適応疾患としては甲状腺癌が主な疾患となり、さらに甲状腺良性結節、バセドウ病などがあります。いずれの疾患であっても合併症なく、安全に目的を達成する手術を目標としています。甲状腺の手術では、甲状腺の裏側にある声帯の動きを動かす神経(反回神経)を温存しなければ、嗄声(声がれ)や嚥下障害(飲み込みづらさ)が生じることがあります。そこで、全例に術中神経モニタリング(NIM:nerve integrity monitoring)装置を使うことでより確実に手術による反回神経損傷を回避するようにしています。またバセドウ病などの内分泌疾患に対しては内科と連携を図ることで、周術期のホルモンバランスの管理を安全でかつ適切とします。一方、甲状腺癌はリンパ節の切除の他に、進行例では反回神経や気管、食道などの周囲組織の合併切除を行わざるを得ない場合があり、機能障害の可能性があります。そのような場合には根治性を追求しつつ、可能な限りの機能温存を行う、バランスのとれた治療を目指します。しかし、反回神経の合併切除などで術後に残念ながら嗄声が残った場合には、嗄声を改善させる手術(音声改善手術:甲状軟骨形成術、声帯内コラーゲン注入術、披裂軟骨内転術)を行い、機能改善をはかります。
甲状腺疾患センター スタッフ紹介
甲状腺良性結節について
甲状腺良性結節には主に濾胞腺腫、腺腫様甲状腺腫があります。手術適応としては
1)大きな腫瘤を形成(腫瘍径が4cm以上)している症例
2)腫瘤が形状不整、内部構造が不規則、石灰沈着を認める症例
3)腫瘤が徐々に増大する症例
4)サイロブロブリン(Tg)値が異常高値(1000ng/ml以上)を認める症例
5)機能性甲状腺結節である症例
6)頸部圧迫や気道圧迫による呼吸困難のような圧迫症状のある症例
7)縦隔内に進展している症例
8)美容上の問題となる症例
であり、最終的にセンター内でのカンファレンスにて治療方針について決定致します。
バセドウ病について
第一の治療法は薬物療法ではありますが、治療法の変更が必要となった場合に放射性ヨード内用療法と手術療法が選択されます。手術療法は①再発の回避、②抗TSH受容体抗体値の改善の点から亜全摘でなく甲状腺全摘がよいと考えます。
そして手術適応としては
1)甲状腺悪性腫瘍を合併している症例
2)抗甲状腺薬の副作用がある症例
3)抗甲状腺薬に対して治療抵抗性の症例
4)抗甲状腺薬を定期的に内服できない症例
5)甲状腺腫が大きい症例
6)バセドウ病眼症を合併している症例
7)抗TSH受容体抗体値高く早期の妊娠を望む症例
8)早期治癒を望む症例
であり、最終的にセンター内でのカンファレンスにて治療方針について決定致します。