泌尿器科

膀胱がん

膀胱は、腎臓で作られた尿を貯めたり(蓄尿)、排出したり(排尿)する臓器で骨盤の中で恥骨の裏側にあります。膀胱は尿路上皮という粘膜に覆われていますが、それががん化したものを膀胱がんといいます。90%以上は尿路上皮がんという種類ですが、まれに扁平上皮がんや腺がんの場合もあります。
膀胱がんは50歳以上の方に多く、男女比は男性が女性の2-3倍です。膀胱がんの原因として、喫煙や染料などの化学物質や放射線治療による被ばくとの関係が分かっています。

症状・特徴

膀胱がんの症状で最も多い自覚症状が肉眼的血尿です。膀胱がんと診断される患者さんの80%以上に見られるといわれています。赤色や茶色の尿で、まれに血塊(血のかたまり)が出ることもありますが、排尿時の痛みや違和感を伴わないのも特徴の一つです。
ただし、上皮内がんでは頻尿や尿意切迫感(尿意が出るとトイレに間に合わない感じ)、排尿時の痛みを伴い、膀胱炎の症状に似ている場合もあります。
国内で新たに膀胱がんと診断される患者さんは年間約20,000人といわれています。
また、膀胱がんの特徴として術後2年以内に50%の患者さんに再発があるといわれています。
再発率が高いため粘膜内にとどまる早期の膀胱がんであった場合でも、3ヶ月ごとの定期的な膀胱鏡検査を行い再発していないかを確認する必要があります。

診断方法

膀胱炎症状を伴わない肉眼的血尿など、膀胱がんが疑わしい場合には、まず顕微鏡を用いた検尿検査を行い、血尿の程度を確認します。
実際に血尿がある場合には、尿細胞診検査と膀胱鏡検査を行います。

  • 尿細胞診検査
    尿のなかに悪性の細胞がいないかを検査する方法です。尿細胞診検査は、陰性・偽陽性・陽性の3段階で評価されます。判定結果が陽性であった場合、膀胱もしくは上部尿路(腎盂・尿管)に悪性腫瘍が存在している可能性が高いと考え、さらなる検査を行います。
  • 膀胱鏡検査
    尿道から内視鏡(カメラ)を挿入し、尿道や膀胱内に異常がないかを確認する検査です。
    当院では細径の軟性鏡を用いて検査を行っており、除痛のゼリーも使用し出来るだけ検査時の苦痛を除去できるよう配慮しております。また検査自体は数分から10分程度で終わります。

これらの検査で膀胱がんが発見された場合、進行度を知るため、MRIやCTなどを行ってがんの深さや転移がないかを調べます。

治療方法

■外科的治療(手術)

  1. TUR-Bt(経尿道的膀胱腫瘍切除術)
    腰椎麻酔下に尿道から挿入した内視鏡を用いて、腫瘍を切除する手術です。
    切除した組織を確認することで、膀胱がんの浸潤度(深さ)や悪性度を知ることができ、表在性(筋層まで浸潤のない場合)であれば、この手術で根治的に切除も可能です。
    手術の合併症としては血尿があります。膀胱内留置カテーテルは切除範囲により数日から1週間程度留置します。
  2. 膀胱全摘除術+尿路変更
    TUR-Btの結果などで筋層浸潤を認めた場合などに、根治目的で行われるのが膀胱全摘徐術です。
    全身麻酔下で臍から恥骨までの下腹部に切開をおいて、男性で膀胱とともに前立腺・精のう・尿道を女性では膀胱とともに膣壁の一部と尿道を切除します。所属リンパ節の切除も同時に行います。
    膀胱の代わりとなって尿を排出する必要があるため、小腸を用いた回腸導管や新膀胱造設、尿管を直接皮膚につなげる、尿管皮膚瘻を膀胱全摘と同時に行います。
    また、2018年4月からロボット支援腹腔鏡下膀胱全摘除術が膀胱がんに対し保険適応となっています。従来の開腹手術と比較し創部が非常に小さく、出血量も有意に減少しました。今後は開腹手術に代わるスタンダードな治療となると思われます。
  3. 化学療法(全身抗がん剤治療)
    膀胱がんが、遠隔転移やリンパ節転移を起こしていた場合や、膀胱全摘の結果で再発が強く予測される場合に適応となります。
    現在、膀胱がんの抗がん剤治療として一般的であるのが、シスプラチン+ジェムシタビン(GC療法)です。おおよそ6割の患者さんに効果があるといわれています。治療期間は効果を見ながら行いますが、3コースでおおよそ3か月です。GC療法で効果が得られなかった場合には、M-VAC療法(メトトレキサート・ビンブラスチン・ドキソルビシン・シスプラチン)を行うこともあります。
    抗がん剤の副作用としては、倦怠感や食欲低下、吐き気、白血球減少、血小板減少などがあります。最近は吐き気を抑えるお薬もよくなっており副作用は軽減されつつあります。
    また、2017年12月より化学療法後に悪化した膀胱がん(尿路上皮癌)に対して免疫チェックポイント阻害剤であるペンブロリズマブ(キイトルーダ)が新たに適応となり、また化学療法で効果が得られた患者さんに対しても、その効果を維持する目的でアベルマブ(バベンチオ)という免疫チェックポイント阻害剤が使用できるようになりました。さらには、根治切除後の再発リスクの高い筋層浸潤性尿路上皮がんに対して、術後補助療法としてニボルマブ(オプジーボ)が2022年4月より適応となっています。
    副作用としては間質性肺炎や内分泌機能障害がありますが、新たな治療方法として注目されています。
    また、これらの免疫チェックポイント阻害剤の効果が得られなかった患者さんに対して、抗体薬物複合体(ADC)の1種であるエンホルツマブ(パドセブ)が2021年9月より保険適応となっています。
  4. 膀胱内注入療法
    膀胱内注入療法とは、抗がん剤(ドキソルビシン)やBCG(ウシ型弱毒結核菌)を膀胱内に一定時間注入し再発予防を行う治療です。
    抗がん剤を用いる場合は、TUR-Btの直後に1回だけ入れる方法や継続し注入する方法もあります。
    BCG注入療法は、再発が強く懸念される場合や膀胱上皮内癌で行われます。週1回の注入を6回から8回行います。BCGの副作用としては膀胱刺激症状や発熱があります。

当院ならではの取り組み

TURBTでは、入院期間をできるだけ短縮できるよう十分な止血を行うなどの工夫を行い、早めに尿道のカテーテルが抜けるよう努力しています。
また、膀胱全摘除術に関しては、ロボット支援腹腔鏡下膀胱全摘除術を2021年2月から導入しており、年間に約10例の手術実績があります。さらには、尿路変更もすべてロボット支援手術で行うICUD方式(体腔内尿路変更)を採用し、より侵襲の少ない手術を行っております。また、膀胱がんに対するロボット手術の指導医であるプロクター認定医とロボット外科学会Robo Doc 国内A級認定医が在籍しており、手術を行っております。
抗がん剤治療に関しても一般的なGC療法だけでなく免疫チェックポイント阻害剤の投与症例も増えてきており、その副作用管理については、専門的な内科医師(呼吸器・代謝内科)とも協力し治療できる環境が整っています。

>>ロボット支援手術について