脳神経外科

脳腫瘍(良性腫瘍)

髄膜腫

髄膜腫は脳腫瘍の一つです。全脳腫瘍のうち約20数%前後を占めるといわれています。
くも膜という脳を覆っている膜の細胞から発生し硬膜に接して成長する、ほとんどが良性の腫瘍です。良性腫瘍はほとんどの場合おとなしい性質なので、大きくなるスピードが癌などとはちがって遅いです。しかし、まれに急速に大きくなるものが存在し、これらは悪性髄膜腫といわれ、転移することもあります。
発生する部位は下図のようにどこからでも発生する可能性があります。

大きくなるまでの経過は長いことが多く、徐々に増大し脳を圧迫していきます。
症状は単なる頭痛から、発生する部位により精神症状・麻痺症状・けいれん・知覚障害・視力視野障害・嗅覚障害などいろいろな症状をきたします。さらに、腫瘍を放置すると徐々に大きくなり脳の圧迫が強くなり、症状が進行し頭蓋内の圧力が高まりやがては生命に危険を及ぼすようになる可能性があります。

髄膜腫がみつかったらどうすればよいのでしょう?部位、大きさ、症状があるかないかなどでことなりますが
①: 経過観察
②: 手術で摘出する(開頭腫瘍摘出術)
③: 放射線治療
があります。
髄膜腫はゆっくりと大きくなる良性腫瘍で、一刻を争って治療しなければならないと言うわけではありません。周囲に重要な役割を果たす脳や血管がなく小さい場合はほとんどが①経過観察です。

②の手術を行う利点は、
1)腫瘍の正確な病理組織が得られますので、良性か悪性かの判断が可能です。
2)良性の腫瘍では全ての腫瘍を摘出することにより治癒が期待されます。
3)全ての腫瘍を摘出することができなくても、腫瘍の周辺組織への圧迫を軽減することにより症状の軽快が期待できます。

症状がでて見つかった場合は、症状の原因を取り除く必要がありますから、あまり議論の余地はなく治療が必要と考えられます。
無症状で見つかった場合は、少々難しいです。腫瘍ですから小さいうちに取り除くほうが治療も簡単で合併症発生率も小さくなります。
手術が簡単な場合でも必ずいくらかの合併症発生率は存在しますし、手術では皮膚・骨を切るので手術後切ったところがしびれる、頭痛持ちになる、骨が少しへこんだなどのささいなことが手術後に生じることがありますので、その点は十分に理解しておく必要があります。

さらに、治療が難しい場所にある腫瘍の場合、手術後に新たな症状が生じることもあり治療にあたっては十分な理解が必要です。
年齢、大きさ、部位、症状の有無などを考えて患者それぞれにあった治療法や治療のタイミングを相談するようにしています(Neuroinfo Japan 脳神経外科疾患情報ページもご参照ください)。

開頭腫瘍摘出術について

髄膜腫は硬膜に接し、硬膜を栄養する血管(外頚動脈)から豊富な血流をうけていることがほとんどです。
術中の出血を少なくするため、髄膜腫と硬膜を切り離すことが最初のステップになります。
しかし、術野の奥深くの血管から栄養されている場合は、最初に血流を遮断することができません。その場合は出血が多くなり、出血により術野が赤くなると手術がたいへん行いにくくなります。

そのため、腫瘍の場所や大きさにもよりますが、可能な限り手術の前にカテーテルを使用して、栄養血管をつめる手術(腫瘍栄養血管塞栓術)を行うようにしています。

開頭手術は、顕微鏡を用いて行います。顔面麻痺、聴力障害、嚥下障害や運動麻痺のリスクを減らすために、いろいろなセンサーを用いてモニタリングを行っています。手術中に迅速病理診断(良性・悪性や本当に髄膜腫であるかの判断)を行っています。

1 腫瘍の再発の可能性について

手術による治療成績は通常腫瘍のできる場所に大きく左右されます。脳の深部にある、脳神経や血管を巻き込んでいる場合は摘出により新たな症状が出現する可能性があり、残存させざるを得ないこともあります。
再発率は腫瘍がどの程度摘出できるかにかかっており専門的にはSimpson Grade 分類というものが一般に用いられています。これは腫瘍がとりきれるかどうか、腫瘍の周りの硬膜や骨の処理ができるかどうかによって分類されています。

一般には腫瘍を全摘出できて、硬膜や骨の処理ができた場合10年後の再発率は数%といわれています。しかし、腫瘍が全摘出できなかったり硬膜や骨の処理ができない場合には10年後には半数近くの症例で再発するといわれています。
手術後の通院で追跡し、腫瘍が再発した場合には今回と同様に腫瘍摘出術を行うか、ガンマナイフ治療、放射線治療などをおこないます。

2 悪性である可能性、他の腫瘍である可能性について

髄膜腫は一般に良性の腫瘍ですが、その数%に悪性のものがあるといわれています。
また最初は良性であっても後に悪性化する場合もあります。そのほか、手術前の検査の結果髄膜腫であると考えられても実際に腫瘍を摘出して病理検査の結果他の種類の腫瘍である可能性もあります。これらについては手術後に摘出した腫瘍を病理検査して結果を後日お知らせします。

聴神経腫瘍

脳には12本の脳神経があります。脳から伸びてきて、頭蓋骨のあなを貫通してそれぞれの器官に分布します。
8番目の脳神経が聴神経です。音を聞く蝸牛神経と平衡感覚に関係する前庭神経(上・下があります)にわかれます。7番目の顔面神経とともに、内耳道という頭蓋骨のあなを走行しています。

これらの神経は鞘(さや)につまれており、そこから発生する腫瘍が神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)です。
ほとんどが前庭神経から発生しますが、症状は蝸牛神経の障害による難聴がもっとも多いです。基本的に良性の腫瘍ですが、内耳道内から飛び出し、脳(脳幹や小脳)を圧迫するほど大きくなることがあります。

聴神経腫瘍がみつかったらどうすればよいのでしょう?
部位、大きさ、症状などでことなりますが異なりますが
①: 経過観察
②: 手術で摘出する(開頭腫瘍摘出術)
③: 放射線治療
があります(Neuroinfo Japan 脳神経外科疾患情報ページもご参照ください)。

良性の腫瘍であるため、腫瘍が内耳道内にあったり、小さなものであるときはほとんどが経過観察となります。
軽度の聴力障害がある時は聴力温存を目指して、小さいうちに手術を考慮することがあります。腫瘍ですから小さいうちに取り除くほうが治療も簡単で合併症発生率も小さくなります。しかし、100%聴力が温存できるわけでなく、さらに皮膚・骨を切るので手術後切ったところがしびれる、頭痛持ちになる、骨が少しへこんだなどのささいなことが手術後に生じることがありますので、その点は十分に理解しておく必要があります。

脳幹を圧迫するような大きな腫瘍は、症状や年齢にもよりますが、基本的に開頭腫瘍摘出術を考慮します。
5番目の三叉神経(顔のかんかく)、6番の外転神経(目の動き)、9・10番の舌咽・迷走神経(飲みこみ)や血管などの周囲構造物が腫瘍に圧迫されたり巻き込まれたりしています。
すでに聴力低下をきたしていることが多く、聴力の温存は困難です。また聴神経の隣を走る顔面神経は腫瘍からの圧迫により、ぺらぺらになるほどとても薄くなっており、顔面神経の同定がとても難しものもあります。手術中は顔面神経や聴神経のモニタリングを行っています。
腫瘍は全摘出が望まれますが、顔面神経など重要な神経、血管などに癒着する腫瘍はあえて残存させることがあります。