脳神経外科

脳血管障害

「未破裂脳動脈瘤」、「頚部内頸動脈狭窄症」、「脳動静脈奇形(AVM)」、「脳血管吻合術(バイパス術)」についてご説明します。

未破裂脳動脈瘤

我々の脳の表面はくも膜(くもの巣に似ています)におおわれています。くも膜と脳のすき間には水(のうせきずい液)が流れてており、脳は水そう(脳そう)につかっているような状態となっています。脳動脈は脳とくも膜の間にあり、そこにできた血管のこぶ(脳動脈瘤)がはれつすると、脳そうの中にいっきに血液が流れこみ、くも膜下出血となります。

脳動脈瘤の成因は明かではありませんが、一般に動脈分岐部の壁に先天的に弱い部分があり、そこに血液の流れ、加齢による動脈硬化や高血圧などが加わって動脈瘤が発生すると考えられています。脳ドックや外来のMRI検査で偶然発見されることが多くあります。特に女性は男性の2倍多いとされます。

一生涯破裂を起こさない場合と、不幸に破裂を起こしくも膜下出血をきたす場合があります。この予測は非常に難しいことですが、自然破裂率はわが国で大きな調査がありました(Neuroinfo Japan 脳神経外科疾患情報ページもご参照ください)。

治療方法

未破裂脳動脈瘤がみつかったらどうすればよいのでしょう?動脈瘤の治療は①: 慎重に経過をみる方法, ②: 脳の血管の内側からカテーテル(細く長いチューブ)でコイルやステントなどを留置する血管内手術、③: クリッピングといわれる開頭手術があります。

1 経過観察の場合

初回で見つかった場合は数か月以内に再度MRI検査もしくは造影によるCT検査を勧めます。
その後は半年毎にMRI検査を行います(部位や大きさによっては年1回の検査となります)。
また、禁煙、節酒(大量の飲酒を控える)が大変重要となります。高血圧症がある場合、血圧の厳重な治療をかかりつけ医や開業医の先生にご紹介いたします。

2 脳血管内手術(カテーテルによる治療)

治療の目的は脳動脈瘤の破裂による出血を防止することです。破裂を防ぐためには、瘤内の血流を遮断する必要があります。足の付け根の血管からカテーテル(細いチューブ)を挿入し、金属(プラチナ)コイル で脳動脈瘤をつめる方法です(5-10日の入院)。金属のアミ(ステント)を併用することがあります。治療は全身麻酔で行います(まれに局所麻酔)。カテーテル治療を行う方は、まず治療の前に脳血管造影検査(カテーテルによる検査で2-3日の入院検査となります)を行っています。結果で、以下の③開頭術がより安全で確実な治療となることがあります。

3 開頭脳動脈瘤クリッピング術

破裂を防ぐために、動脈瘤の頚部にクリップをかける治療です(10-14日の入院)。手術は全身麻酔で行います。皮膚を切開し(髪の毛はごく一部を剃毛のため、術後は開頭の痕がほとんどわかりません)、頭蓋骨を外します(開頭)。顕微鏡を使い、脳のすき間を伝って、動脈瘤に到達します。動脈瘤の頚部にチタン製のクリップをかけ、瘤内の血流を遮断します。インドシアニングリーン(ICG)というお薬を静脈に注射すると、顕微鏡の下で血液の流れを確認することができます。これにより動脈瘤の閉塞や正常血管が閉塞していない事を確認します。骨はチタン製プレートと吸収されるプレートで固定します。

最小限の剃毛、側頭筋の最小切開(術後のあごの運動に関与)、骨膜の温存(長期的な骨の縮みを予防)、確実な遮断(血管形成的なクリッピング)、美容形成的な閉頭、術後顔の腫れを最小限にする工夫などを行い、開頭術という体への負担を軽減するように努めています。


頚部内頚動脈狭窄症

脳梗塞は脳を栄養する動脈がつまる病気です。つまる血管の場所や太さにより、さまざまな症状が出ます。ろれつ障害、ことばが出ない(失語)、一側のうで・足が動きにくいなどは気がつきやすい症状です。脳は大まかに半分より前の部分(前頭葉)が運動系です。上記の症状は運動系(前頭葉)の症状です。脳の後ろの部分(頭頂葉、側頭葉、後頭葉)は感覚系です。言葉を理解する、認識(対側空間や対側半身の認知機能)、見るなどの機能があります。前頭葉の症状(麻痺の運動系の症状)に比べると気が付きにくいことがあります。太い血管がつまると、意識障害が出現します。

血管がつまるには大きく二つの機序が考えられます。①血管がその場でつまる場合と②血管をつめるものが流れてくる場合があります。脳への血管は心臓から大動脈で分岐します。首の部分で拍動を触れることができる血管が頚動脈です。脳を栄養する頚動脈は内頚動脈といわれ、頚部内頚動脈が細くなった場合(狭窄症)、上記の①、②の原因で脳梗塞となることがあります。

頚部内頚動脈狭窄症は一過性脳虚血発作(脳血流の低下や小さな血栓により、一時的に神経症状が出現する病態)や脳梗塞となってわかる場合(症候性)と脳ドックなどの検査で偶然に見つかる場合(無症候性)があります。脳梗塞に陥ると現在の医学水準では脳梗塞に陥った部分を救うことはできません(リハビリテーションなどによりある一定度までの機能回復を得ることができます)。

治療方法

治療は脳梗塞の進展,再発を少しでも減少させることになります。①内服薬での治療、②外科的にプラークを摘出する手術(頚動脈血栓内膜剥離術)、③カテーテルによる治療(頚動脈ステント留置術)の三つがあります。症候性・無症候性ともに、①は再発予防するために最も大切な治療です。プラークが大きい場合(狭窄が強い場合)、プラークが柔らかい場合、症候性の場合などは②、③の治療が考慮されます。

1 内服薬での治療

内服薬での治療は再発予防するために最も大切な治療です。プラークが大きい場合(狭窄が強い場合)、プラークが柔らかい場合、症候性の場合などは以下の2、3の治療が考慮されます。

2 頚動脈血栓内膜剥離術(Carotid endarterectomy: CEA (以下「CEA」と記載します)

CEAは全身麻酔で行います。頚部で動脈を露出し、切開を加え血栓を内膜とともに摘出します。頚動脈を切開している間はチューブを挿入し脳への血流を確保し、さらに、近赤外線により脳血流のモニターを行います。

3 頚動脈ステント留置術(Carotid artery stenting: CAS (以下「CAS」と記載します)

CASは局所麻酔で行います。血管の中からステントという金属でてきた網目状の筒で狭窄部をひろげる方法です。広げる際に血栓が脳へ流れていくことを予防するため、虫とりあみのような網や風船を使います。

CEAに関して、症候性の場合は70%以上の高度狭窄例でCEAが有効、無症候性の場合では60%以上の狭窄でCEAが有効と言えます。しかし、CEAには外科医の手術手技的なリスクに関する条件が付けられています。 症候性病変では6%以下、無症候性病変では3% 以下のリスクでなければなりません。また、心疾患を始めとする他臓器疾患の合併、全身麻酔、放射線治療後、一度CEA術後の再狭窄などはCEAのリスクを高める要因になります。このようにリスクが高いと予測される場合には、CASが選択されます. CASにも考慮すべき治療リスクがあります。不安定プラーク (柔らかい血栓)、プラークの量が多い、脳梗塞発症早期、高度の石灰化、強い血管の蛇行などがそれに該当します。②CEAと③CASはともに脳梗塞初発・再発予防に対してよい成績があります。治療のリスクを考慮し、患者さんに適した方法を選択しています(Neuroinfo Japan 脳神経外科疾患情報ページもご参照ください)。

脳動静脈奇形(Arteriovenous malformation: AVM)

正常な血管は動脈―毛細血管(脳細胞に酸素をうけわたします)-静脈と流れています。脳で動脈と静脈が直接つながり異常な血管のかたまり(ナイダスといいます)ができる奇形を、脳動静脈奇形(以下AVM)といいます。
AVMは生まれる前に何らかの異常で形成されるものですが、一生涯で出血を起こしたり、けいれん発作をきたしたりすることがあります。壁の薄い静脈に勢いのよい動脈血が流こんだり、血管のコブ(動脈瘤)ができて破裂を起こしたりすることによって、脳内出血やくも膜下出血をきたします。AVMにはSpetzler-Martin分類が用いられており、大きさ、部位(運動やことばなどの重要な場所にあるか)、ナイダスからの導出静脈(脳の表面か深部か)で、グレード1から5まで(5が最も治療困難)にわかれています。

AVMがみつかったらどうすればよいのでしょう?AVMの治療は①経過観察, ②脳血管内手術(カテーテルによる治療)、③開頭手術、④放射線治療(ガンマナイフなど)があります。治療の場合は単独治療のこともありますが、②・③・④を組み合わせてより安全・確実にできる治療を行います。

出血を起こしていない場合(未破裂AVM)、年間の出血リスクは2%とされます。年齢も考慮しますが、AVMのグレードが1(小さく、重要な機能がない部位、表面にあるもの)であれば比較的安全に開頭手術が可能です。グレード2の場合は、やや大きい、重要な機能がある部位、深部にあるのどれかが関係するため、治療を行うか否かを慎重に決める必要があります。例えば、グレード2の中でも、大きさの関与であれば開頭術を考慮したり、深部にあるものは放射線治療を考慮したりします。

出血を起こした場合(破裂AVM)、再出血のリスクは最初の1年が6-17.8%、その後は未破裂AVMと同じ2%とされます。破裂AVMは脳出血よる症状、年齢やグレードなどを考慮しますが、②・③・④単独もしくは組み合わせた治療がよいと考えています。

治療方法

2 脳血管内手術(カテーテルによる治療)

足の付け根からカテーテルを使用し、AVMの流入動脈もしくはナイダスを詰める治療です。根治には、ナイダスをすべて閉塞し、出口である導出静脈を閉塞する(開頭手術で行うことと同じです)必要があります。ナイダスを残したままで導出静脈を閉塞すると、勢いのある血流が行き場を失い出血をきたしてしまうからです。これを血管内治療単独で行うことは難しく(血管内治療の発展にともない、根治できることもあります)、開頭術と組み合わせて行います。ナイダスや流入する動脈を詰めることにより、開頭術のリスクが下がり、より安全な治療が可能となります。

3 開頭AVM摘出術

開頭を行い、顕微鏡を用いて流入動脈を切断(一部はすでに血管内治療で閉塞)、ナイダスを周囲からはくり、最後に導出静脈を切断してAVMを摘出します。運動麻痺などの手術によるリスクを減らすため、いろいろなセンサーを用いてモニタリングを行っています。また、インドシアニングリーン(ICG)というお薬を使用し、顕微鏡の下AVMの摘出を確認しています。

4 定位放射線治療

放射線治療後はAVMが消失するまでに数年の時間が必要です。また放射線を使用しますので、少ない確率ですが、正常な脳に変化をきたすことがあります。長期的に経過をみる必要はありますが、特に、AVMが脳の深部にあったり、重要な機能のある部位にあったりする場合、放射線治療は有効な方法です。

脳血管吻合術(バイパス術)

脳梗塞は脳の血管がつまる病気で、重篤な後遺症を残したり、最悪は生命にかかわったりします。脳の動脈がせまくなると、状態によって脳梗塞を起こす可能性が高くなります。脳の血管がせまくなる原因のほとんどは加齢、喫煙、大量の飲酒、高血圧、糖尿病、脂質の異常などによる動脈硬化が関係しています。バイパス術はせまくなった血管が栄養する脳に、頭皮に行く血管などをつなぎ、新たな血流の道をつくる方法です。
以下のような病気でバイパス術を行うことがあります。

  頭蓋内血管狭窄・閉塞症

動脈硬化により脳の血管がせまくなる、つまる(別の血管から運よく血液がまわってきた場合、症状の出ないことがあります)状態に対して行うことがあります。動脈硬化は脳血管だけでなく心臓や四肢の血管などの全身の血管に起こる可能性があるため、脳だけでなく全身の病気として考える必要があります。まずは禁煙、節酒、高血圧症、糖尿病、脂質異常症などの治療が最も重要になります。SPECTという脳血流を測ることのできる検査を行います。
脳血流が十分にあれば、バイパス術の適応となることはほとんどありません。血流の低下があれば、せまい部位や脳血流の流れ方をくわしく調べるために、脳血管造影検査(カテーテル検査)を考慮します。一生涯の脳梗塞発症リスクがバイパス術により低下すると判断される場合は、バイパス術について相談します。

  もやもや病

もやもや病は内頚動脈という脳の血管が、左右共に狭くなる難病です。せまくなった血管の先に血液を送るため、たいへん細い血管が発達します(もやもやした感じにみえるため、もやもや血管といいます)。特に小児期は、充分な血流が送れないため、脳梗塞となるリスクがあります。大人になると、もやもや血管以外に脳を貫く血管が発達し、血管に負担がかかるため、脳出血を発症するリスクが高くなります。脳血管造影検査、MRI検査、SPECT検査などを行い、脳血流を増やす必要がある、出血を起こしやすい血管の負担を減らす必要がある場合はバイパス術が考慮されます。

  特殊な場合

大きな脳動脈瘤の治療や重要な血管を巻き込んでいる脳腫瘍の治療で、正常血管の温存が困難な場合や手術中に長時間血管を遮断する必要がある場合などは、バイパス術の必要となることがあります。