患者さんへ
一般・消化器外科では、①消化管(食道、胃、大腸、肛門)、肝胆膵(肝臓、胆嚢、胆管、膵臓)の各種がん、②虫垂炎、胆嚢炎、腸閉塞、消化管穿孔などの急性腹症、③胆石、ヘルニア(脱腸)、痔疾(いぼ痔、切れ痔、痔ろう)、直腸脱、外傷などの良性疾患に対する手術治療を行っています。
臓器別に上部消化管(胃・食道)・下部消化管(大腸・肛門)・肝胆膵(肝臓、胆嚢・胆管、膵臓)領域の専門医を中心に、ひとつの消化器外科チームとして診療を行っております。
がん治療では、消化器内科、腫瘍内科、緩和医療科、放射線治療科、病理診断科と共にカンファレンス(キャンサーボード・消化器カンファレンス)を行い、診療指針(ガイドライン)に従った標準治療としての手術を確実、安全に行うよう努めています。
また、低侵襲手術(身体への負担を低減すること)として腹腔鏡下手術・ロボット支援手術も積極的に導入しています。
良性疾患に対しては、待機手術のみならず病状に応じて24時間いつでも対応可能な緊急手術体制を整え、いかなる状況においても高い水準の治療を行えるようにチームとして対応しています。
各種がんに対する詳しい外科診療の内容については、下記ページを参照ください。
⇒ 上部消化管外科(胃・食道)
下部消化管外科(大腸(結腸・直腸))
肝胆膵外科(肝臓・胆嚢・胆管・膵臓)
当科の特色
当院は大阪府泉州地域の中核病院として、2021年4月に国指定地域がん診療連携拠点病院の認定を受け、質の高いがん医療を患者さんに提供するよう努めています。消化器外科では、消化器がんに対して領域別(上部消化管・下部消化管・肝胆膵)に専門担当医を配置し、より高度で専門的な外科治療を患者さんに提供できる体制を整えています。これまで、消化器がんに対しては従来からの開腹手術に加えて、低侵襲手術である腹腔鏡手術を積極的に行ってまいりましたが、2021年4月から次世代手術といわれるロボット支援手術を胃がん手術に導入し、さらには2022年8月から直腸がん手術に対しても積極的に施行しています。がん手術における根治性を確保しつつ、低侵襲性の更なる向上を追求してます。
通常、根治が難しいと考えられている進行再発がんに対しては、腫瘍内科や放射線科などがん治療に関与しているその他の診療科と連携して手術療法・化学療法・放射線療法などを組み合わせた集学的治療を行い、できうる限り生活の質を低下させることなく高い根治が得られるように、計画した治療を行っています。
また、上記のような悪性疾患に対する手術のみならず、良性疾患や緊急手術を要するような救急疾患に対しても、各診療科や地域開業医の先生方との緊密な連携のもとに積極的な対応に努めています。
主な対象疾患
・食道がん、胃がん、大腸がん(結腸がん・直腸がん)、肝臓がん(原発・転移性・胆管がん)、膵がん、胆嚢・胆管がんなどの消化器がん、間葉系腫瘍(GIST)
・肝良性腫瘍、肝嚢胞、肝内結石、胆石、総胆管結石
・膵腫瘍(膵管内乳頭粘液性腫腫、内分泌腫瘍、嚢胞性腫瘍)
・急性虫垂炎、胆嚢炎、絞扼性腸閉塞、憩室穿孔、胃十二指腸潰瘍穿孔、腹膜炎などの急性腹症
・鼡径ヘルニア、大腿ヘルニア、閉鎖孔ヘルニア、腹壁ヘルニア、食道裂孔ヘルニア
・痔疾(いぼ痔・切れ痔・痔瘻)、直腸脱
・腹部外傷
このような症状の方を診察しています
・検診や内科系診療科でがんと診断あるいは疑われた方
・急性腹症と呼ばれる、急な腹痛で内科的治療では対応できない方
・手術による診断(生検)が必要な方(リンパ節腫脹など)
・胆石、ヘルニア(脱腸)、痔疾、直腸脱などの良性疾患で悩まれている方
・外傷救急(整形外科・形成外科と連携します)
鼡径ヘルニアについて
1.鼡径ヘルニアとは
ある臓器が体の弱い部分やすき間から他の部位へとび出す状態をヘルニアといいます。 ヘルニアは体のさまざまな場所で起こりますが、足の付け根付近(鼡径部)で起こるものを 鼡径ヘルニアと言います。鼡径ヘルニアは腹腔内の小腸がとび出てくることが多いため、昔から俗に「脱腸」とよく呼ばれています。子供にもよくみられる疾患ですが、大人では中年以降の男性に多くみられます。 成人鼡径ヘルニアの治療方法は手術しかありません。
2.鼡径ヘルニアの原因
腹腔内にはさまざまな臓器(小腸・大腸・脂肪組織など)がおさまっています。 これらの臓器が腹腔内におさまるように壁となって支えているのが、腹壁を構成している筋肉や筋膜です。加齢によって、この筋肉や筋膜が弱くなったり、ゆるんだりすると、特に鼡径部の筋肉の壁にすき間や穴(ヘルニア門)があいたような状態になります。すると、腹腔内の臓器がこのすき間や穴を通って腹腔外にとび出し、鼡径部が膨隆した状態になります。
3.鼡径ヘルニアの症状
立ち上がったり、お腹に力を入れると腹腔内の臓器がとび出して、鼡径部が膨らみます。この膨隆は親指頭大程度のごく小さなものからソフトボール大くらいまでの大きなものまで、さまざまパターンがあります。男性の場合は膨隆が陰嚢内まで達することもよくあります。これらの鼡径部の膨隆は、体を横にしたり、手で押さえると多くは消失します。 膨隆以外の症状はないことがほとんどですが、あったとしても軽い痛みやつっぱり感がある程度で、強い痛みなど特別な症状はありません。 上記の症状は片側の鼡径部のみならず、同時期に両側に出現することもあります。 また、まれではありますが、とび出した臓器が腹腔内にもどれなくなり、鼡径部が膨らんだままの状態になることがあります。この状態を嵌頓(かんとん)と言います。小腸が嵌頓すると、腸閉塞や腸壊死を発症して、お腹が張ったり、嘔吐したり、強い腹痛などが出現します。嵌頓を解除できない場合には緊急手術が必要となります。
4.鼡径ヘルニアの分類
鼡径ヘルニアは基本的に次の3つのタイプに分類されています。 さらに3つのタイプのいくつかが同時に存在する複合型もしばしばみられます。
① 内鼡径ヘルニア
腹腔内の臓器(小腸・大腸・脂肪組織など)が、内鼡径輪は通らずに、弱くなった鼡径管の壁をつらぬいて、腹腔外へととび出すタイプ。中高年の男性に多い。
② 外鼡径ヘルニア
腹腔内の臓器(小腸・大腸・脂肪組織など)が、拡大した内鼡径輪という穴から鼡径管と呼ばれるトンネルを通過して、腹腔外へととび出すタイプ。乳児または中高年の男性に多い。
③ 大腿ヘルニア
腹腔内の臓器(小腸・大腸・脂肪組織など)が、拡大した大腿輪(下肢へ向かう血管の通り道)を通過して、腹腔外へととびだすタイプ。中高年の女性に多く、嵌頓しやすい。
5.鼡径ヘルニアの治療法
鼡径ヘルニアの根治のためには手術治療が必要です。 膨隆以外の症状がないのならば、経過観察をすることも選択肢のひとつになり得ます。しかし、鼡径ヘルニアが自然治癒することはありませんし、むしろ、膨隆が少しずつ大きくなることが予想されます。また、経過中にとび出した小腸が腹腔内に戻らない嵌頓状態に陥る可能性はおよそ1-1.5%とされています。その場合には、緊急手術を要して、腸切除が必要となることもあります。
鼡径ヘルニア手術
現在、鼡径ヘルニアに対する手術においてはメッシュ(人工補強シート)を用いた手術が主流となっています。腹腔内の臓器が出てこないように、腹壁の穴(ヘルニア門)にメッシュを貼り付けます。メッシュはヘルニア門をふさぐとともに、その周囲の腹壁の弱くなっている部位も補強します。 このメッシュはやわらかくて軽く、体に害がない人工の素材で作られています。手術後の痛みやつっぱり感や異物感が少ないことが特徴です。しかし、感染に弱いという弱点も持ち合わせています。 下の写真のように術式によってさまざまなタイプのメッシュがあります。
6.鼡径ヘルニアの各術式
(1)前方アプローチ法
鼡径部に5-7㎝程度の切開をおいて、腹壁の前方から手術をおこないます。 通常は腰椎麻酔(脊髄クモ膜下麻酔)、または局所麻酔にておこないます。 前方アプローチ法には下記で述べる組織縫合法とメッシュ修復法があります。
(a)組織縫合法
腹壁にできた穴(ヘルニア門)を周囲の筋肉や筋膜を縫い合わせることで閉鎖する方法。昔からある術式で、人工物であるメッシュは使用しません。 現在では選択されることが少なくなった術式ですが、メッシュが感染に弱いことから、すでに感染を合併している場合や感染のリスクが高い場合には、この方法を選択します。 他の術式に比べて、術後の疼痛が強いことや再発率が高いことが欠点になります。 縫い合わせる筋肉や筋膜の部位によってMercy法・Bassini法・iliopubic tract法・McVay法などがあります。
(b)メッシュ修復法
腹壁にできた穴(ヘルニア門)にメッシュと呼ばれる人工補強シートをあてて、閉鎖する方法。比較的簡便な方法で、組織縫合法に比べて再発率が低いと報告されています。 メッシュの当てる位置などによって、メッシュプラグ法・リヒテンシュタイン法・クーゲル法・PHS法などがあります。
(2)腹腔鏡手術
お腹に5-10㎜程度の穴を3か所開けて、腹腔鏡と呼ばれるカメラを使って手術をします。 腹腔内の画像をテレビモニタでみながら、腹腔内側からヘルニア門にメッシュをあてて閉鎖します。 正確な鼡径ヘルニアのタイプ診断が可能で、過不足のない手術ができます。 創が小さいので、術後の疼痛が少なく、早期の社会復帰が可能です。 当院の鼡径ヘルニアに対する標準術式となっています。 全身麻酔で行い、手術時間は前方アプローチ法に比べてやや長くなります。 アプローチ法の違いにより、完全に腹腔内に入るTAPP (Transabdominal preperitoneal approach)法と腹膜と腹壁の間に入ってスペースを作るTEP(totally extraperitoneal approach)法があります。
痔疾について
1.肛門の構造
肛門は排泄を司る器官です。 通常は肛門括約筋が緊張し、便やガスが漏れないようになっています。内肛門括約筋は自分の意思と関係なく、直腸に便が送られると弛緩し、排便が促されるのですが、外肛門括約筋は随意筋のため、意識的に肛門を締めたり緩めたりすることができます。血管が網の目状に広がった静脈叢も弾力性に富み、漏便を防ぐ役割があります。便意を催し、トイレでの排便可能な環境が整うと括約筋が弛緩して便やガスが排出されます。この括約筋に締められた4-5cmの管状部分が肛門管です。肛門管(上皮)は歯状線を境に直腸(粘膜)に移行します。 歯状線には肛門小窩(陰窩)と呼ばれるくぼみがあり、排便時に粘液を分泌し、スムーズな排便に寄与します。 肛門や肛門周辺にできる病気を痔と言います。
2.痔とは
日本人の3人にひとりは痔に悩んでいるとされています。痔のタイプは痔核(いぼ痔)、裂肛(きれ痔)、痔瘻(あな痔)の3つに大別されます。
(1)痔核
痔疾の半数以上を占めます。 2足歩行のため(肛門が心臓より低い位置にあるため)肛門周囲がうっ血しやすいこと(痔核は2足歩行をするヒト特有な疾病です). 排便時のいきみ(和式トイレも痔核の一因と言われています)等で過度の負荷がかかることで肛門静脈叢がうっ血し、こぶ状に腫れた状態です。主原因は便秘や下痢によるいきみの繰り返しであり、生活習慣病のひとつであると言えます。まずは排便習慣の是正と香辛料やアルコール等の刺激物を控えることですが、症状がひどく、保存的治療に奏効しなければ手術となります。
歯状線を境に直腸側にできる内痔核と皮膚側にできる外痔核とに分けられます。通常、内痔核ができ、大きくなり、外痔核を合併します。基本的に内痔核には痛みを伴いません。痛みがある際は・外痔まで広がった内外痔核・血栓(血液の固まったもの)・嵌頓(脱出し、環納できなくなった状態. 括約筋に締められ血流障害を来します)等が考えられます。内痔核の愁訴は排便時の出血や脱出, 外痔核の愁訴は排便時の痛みです。 内痔核は脱出の程度により、上記の如く分類されます。患者さんの症状や病脳期間等を踏まえて手術すべきかを決定します。
(2)裂肛
硬い便により肛門上皮が裂けた状態です。強い排便時痛を伴います。 急性裂肛では緩下剤での排便コントロールを行いますが、慢性化し、潰瘍化したり、瘢痕による狭窄をきたした際は手術加療を要します。
(3)痔瘻
肛門小窩からの細菌感染が原因です。下痢やアルコール摂取が原因とされています。 原発口(感染した肛門小窩)より瘻管を通じて膿たまり(肛門周囲膿瘍)を形成します。感染が原因ですので強い痛みを伴います。排膿することで痛みは和らぎますが、瘻管が遺残していると再発することが多く、根本的には手術加療が必要です。 瘻管の広がりや深さにより 皮下・粘膜下痔瘻 内外括約筋間痔瘻 深部痔瘻(坐骨直腸窩痔瘻・骨盤直腸窩痔瘻)に分類されます。 長期間痔瘻を放置すると慢性的な炎症により、希にがん化(痔瘻がん)することがあります。
3.手術
(1)痔核
①結紮切除
粘膜を電気メスで切開しながら、痔核をはがしていき、最後に痔核の根元で血管を糸で縛った後に、痔核を切除します。吸収糸という溶ける糸を使うため、術後に抜糸の必要はありません。創部は(部分的に)開放創とします。肛門は便の通り道であるため、傷口を縫い合わせてしまうと、縫い目から便が入り込み、化膿してしまうことがあるからです。 内痔核は3カ所できることが多いです(3時 7時 11時方向にできることが多いです)。場合によって創部が3カ所となります。 術後は患部を清潔に保っていただく必要があります。数週間で創部は閉鎖されます。
②硬化療法(四段階注射法)
中国の消痔霊という薬液を改良したものです。ALTA(アルミニウムカリウムとタンニン酸)という薬液を痔核に注射することで炎症を惹起させ、組織の修復瘢痕を促し、内痔核を消退させます。 通常、1つの内痔核に対して4カ所注射するため、四段階注射法とも呼ばれます、内痔核の大きさにより薬液量を調整します。
硬化療法の適応は内痔核です。出血を繰り返す内痔核がいい適応になります。 外痔核や血栓化した痔核、嵌頓痔核には硬化療法の適応はありません。 結紮切除と組み合わせた治療を行います。
(2)裂肛
慢性化・潰瘍化した裂肛を切除し、瘢痕肥厚した組織を削ることで直りやすい創にします。 すぐ外側の皮膚を移動して創部を縫合します(皮膚弁移動術) 裂肛の患者さんは肛門の緊張が強くなっているため、必要に応じて内肛門括約筋を一部切開します(皮下内肛門括約筋切開)。
(3)痔瘻
原発口(感染した陰窩)と瘻管を切除する必要があります。 瘻管の深さや広がりにより、大きく以下の3通りの方法を使い分けます。
①切開開放術(lay open法.レイオープン法)
瘻管に沿って切開、開放します。感染した組織を切除し、治りやすい創にします(開放創とします)。括約筋ごと切開してしまうため、瘻管が括約筋に深く及んでいる際はくり抜き法やシートン法とします。
②括約筋温存手術くり抜き法(coring out法. コアリングアウト法)、シートン法
括約筋温存手術くり抜き法(coring out法. コアリングアウト法)、シートン法があります。括約筋の切開を極力最小限とするため、瘻管をくり抜くように切除します。原発口を縫合閉鎖する方法とゴム輪を通すシートン法とがあります。
・くり抜き法
原発口は縫合しますが、便の通り道になるため離解することも多く, 再発の多い術式ではあります。
・シートン法
瘻管が深く複雑化している際は弾力性のあるゴムひもを瘻管に沿って通します。数日おきにゴムひもを締め直すことで少しずつ括約筋を切開するため、括約筋の損傷を最小限にすることできます。
切開開放術が最も根治性の高い手術法ですが, 括約筋ごと切開するため術後に後遺症(肛門の変形や漏便)をきたす恐れがあります。 シートン法はゴム輪で少しずつ数ヶ月かけて括約筋を切開するため, 括約筋の損傷を最小限とすることができ, 術後の後遺症を回避できます. その分治療に数ヶ月を要しますが, 根治性を保ちつつ, 肛門機能を温存する手術となります。