乳腺外科

治療方法

乳がんは、大きく分けて非浸潤がんと浸潤がんがあります。非浸潤性乳がんは、がん細胞が乳管の中にとどまっており、基本的に転移や再発をすることがありません。したがって手術療法のみが選択となります。しかしながら、乳管に伝って広がることが多いために、たちのいいがんではあるもの、乳房を全摘しないといけないこともあります。その場合は乳房再建も考慮されるべきでしょう(後述)。一方、浸潤性乳がんは、がん細胞が乳管を突き破っており、全身にがん細胞が回っている可能性もあります。したがって、手術だけでなく、ホルモン療法、抗がん剤、分子標的治療(がん細胞の鍵穴を攻撃して正常な細胞には攻撃しない治療)、 放射線療法などがあり、個々のがんに対して、適切な順番、組み合わせで治療します。その選択肢は個々の患者さんと、乳がんのタイプにより多種多様です。

以下は、浸潤性乳がんについて述べます。

1. 閉経の有無
2. 腫瘍径
3. わきのリンパ節の転移の有無
4. ホルモンレセプターの発現と、その感受性の割合
乳がんのタイプにより女性ホルモンに依存して大きくなるものがあります(ホルモン受容体陽性乳がん)。その場合は、がん細胞の表面の女性ホルモンの鍵穴をブロックしたり、血中のホルモン濃度を下げたりすることで、がん細胞の増殖を抑えることができます。これが乳がんのホルモン療法です。一般的にホルモン受容体陽性の乳がんの性格はいいです。
5. HER2過剰発現の有無
HER2はそれがあると、がんの増殖が活発であるといわれており、ハーセプチンという分子標的薬の適応となります。HER2過剰発現のある乳がんは、以前はたちが悪いものでしたが、ハーセプチンという薬の登場で、その性格はかなり抑え込むことができるようになりました。あるデータでは再発のリスクをハーセプチンにより半分に抑えることができると言われています。
6. 組織学的グレード分類
施設により、核グレード分類という方法でも判定されます。
1~3の3段階で、1が良い、2が普通、3が悪いです。これはがん細胞の見た目を観察しています。3だと外見が「不良」になり、たちの悪い乳がんの可能性があると判断します。
7. Ki-67 インデックス(施設によりMIB-1インデックスとも言います)の割合
これは、がん細胞の増殖活性を特殊な染色で見る方法です。おおよそですが、その染色割合が20%を超えると、がん細胞の増殖活性が高く、たちの悪い乳がんの可能性があると考え、抗がん剤を追加で投与する判断材料になります。
8. 脈管侵襲
がん細胞のすぐ周りにある小さなリンパ管、血管の中にがん細胞がある場合、脈管侵襲ありと表現します。これを認める場合は、全身にがんが回っている可能性があり、同様に抗がん剤を追加で投与する判断材料になります。

一般によくがんステージ分類をして、5年生存率がどうだとかいいますが、乳がんに関してはステージよりも、上記1~8のことから判断して、どういう性格の『がん』なのかを判断することが重要となります。
ステージというのは、2,3のみでしか判断していません。同じステージⅠの乳がん(腫瘍径2cmくらいでリンパの転移なし)でも、たとえば『ホルモン感受性があり、HER2過剰発現がなく、組織学的グレードが1、Ki-67が5%の乳がん』と、『ホルモン感受性がなく、HER2過剰発現があり、組織学的グレードが3、Ki-67が80%の乳がん 』とでは治療法の選択は大きく異なるものとなります。前者は術後はホルモン療法(内服薬)のみの治療で十分と思いますが、後者は術後に化学療法+ハーセプチンが必須となります。
では、同じく腫瘍径2cmくらいでリンパ節の転移なし、ホルモン感受性があり、HER2過剰発現がないものの、組織学的グレードが3、Ki-67が80%の乳がんだとどうしましょうか?こういうパターンも日常臨床でよく遭遇する例であり、術後補助療法としてホルモン療法はするものの、化学療法を追加で投与するかどうか、悩むところです。 そういう場合、希望者にはオンコタイプDXという検査を追加で行い、がん細胞の性格を遺伝子学的に検索して化学療法を追加した方がいいか否かの判断をします。しかしこの検査は現在保険適用ではなく、検査をするだけで40万円くらい負担しなければいけないという欠点があります。 適応となる例は、閉経前および閉経後のリンパ節転移陰性・ホルモン受容体陽性の浸潤性乳がん患者、およびリンパ節転移陽性・ホルモン受容体陽性の浸潤性乳がん患者です。検査を受けると再発スコア結果が算出されます。再発スコア結果は0から100までの数字で表され、乳がんが診断から10年以内に再発する可能性について、そしてさらに重要な、化学療法がどのくらい有効かについての、情報を提供することができます。この検査は、最初の手術(コア生検、乳腺腫瘤摘出術、乳房切除術)で切除した組織を少量使って実施しますので、この検査のために追加の手術や処置を受ける必要はありません。
ホルモン感受性がないとか、HER2過剰発現があるタイプの乳がんならば、一般に手術に加えて、抗がん剤が使用されます。期間は、3か月から半年です。 ハーセプチンは1年間投与します。
がんというのは、見つかった段階で、全身転移を起こしているかもしれません。そういうのを微小転移と呼びます。 庭を放置していると雑草が生えてきますが、その雑草(微小転移)が生えてこない(再発しない)ように、庭全体に除草剤(抗がん剤)を散布するようなものです。 どんな小さながんでも、タイプによっては初期の段階で全身転移しているというのが、最近の考え方です。 ほとんどの浸潤性乳がんは、手術のみでは治療が不十分であり、乳がんのタイプ別により適切な薬物治療(ホルモン療法や抗がん剤治療)を加えることが、将来の再発を回避するために、極めて重要なのです。

放射線治療について

放射線は、乳房温存の手術をされた方に必要です。残存乳房に再発する可能性があるからです。週5日×5週の照射を通常行います。 それとは別に、わきのリンパ節転移の個数が多かった場合(一般に4個以上)は、たとえ乳房全摘をしたとしても、胸壁と手術した側の首の付け根に放射線照射を追加するのが一般的です。 初診時に遠隔転移のある乳がんや、再発乳がんの治療について  初診時に残念ながら、肺や肝臓、骨などの遠隔転移を認めた方(転移性乳がん)または、術後の経過中に再発してしまった方(再発乳がん)は原則として手術は適応外になります。 その場合、ホルモン療法や、抗がん剤などのお薬による治療がメインになります。  治療法は、生命を脅かすほどの転移(例えば多発する肺や肝臓の転移)がある場合は、ホルモン感受性のある乳がんでも、抗がん剤から開始したほうがいいでしょう。 そうでない場合は、転移性乳がんの治療は極力副作用の少ない治療からはじめます。
ホルモン感受性乳がんならば、ホルモン療法からはじめるのが通常です。 HER2過剰発現があるならば、まず第1選択としては、抗がん剤と前述したハーセプチン、および近年開発されたパージェタという新たな分子標的薬(2013年発売)を組みあわせて投与します。パージェタの上乗せで従来の抗がん剤+ハーセプチンのみよりも生存期間の延長が認められています。 一般論として、転移再発乳がんの治療は薬剤が効かなくなれば、違う薬剤を順次変更して使用していきます。 しかし、残念ながら、転移性乳がんに関しては、完治する可能性は極めて低いのですが、進行を食い止めることは可能です。がんが、おとなしくしていてくれる時間を極力長くできるように、かつ副作用は少なくてすむように治療していくことが転移再発乳がんの治療において重要なのです。 また、乳がんや卵巣がんの5-10%は、遺伝的な要因が強く関与して発症していると考えられています。その中で最も多くの割合を占めるのが、遺伝性乳がん卵巣がん症候群と(HBOC)よばれるものです。当院では、ご本人さんの乳がんの性格および家族歴を聴取して、希望するならば、乳がん発症リスクの高い遺伝子をお持ちであるか否かの検索を行っております。詳細は、担当医師にお尋ねください。