解剖・疫学
膵臓は、胃の後ろにある、長さ20cmほどの細長い形をした肌色の臓器です。右側の尾側に盛り上がっているところを膵頭部といい、十二指腸に接しています。体の左側の幅が狭くなっているあたりは膵尾部といい、すぐ近くに脾臓があります。膵臓の真ん中は体部といいます。膵臓全体には、膵管が通っています。胆管も膵頭部を貫いており、膵管と合流して十二指腸乳頭部に開口しています。がんの名称も発生した部位により「膵頭部がん」「膵体部がん」「膵尾部がん」となります。

膵臓には2つの役割があります。食物の消化を助ける膵液をつくり分泌すること(外分泌機能)と、血糖値の調節をするインスリンなど、いろいろなホルモンをつくり分泌すること(内分泌機能)です。膵液は膵管によって運ばれ、主膵管という1本の管に集まります。主膵管は、十二指腸乳頭部で、肝臓から胆汁を運ぶ総胆管と合流して十二指腸につながります。インスリン分泌は最も重要な内分泌機能です。膵臓がないとインスリンが分泌されなくなり、血糖をコントロールするため外的にインスリン製剤を投与する必要があります。

膵臓がんの罹患者数(2019年:男性で22,285人、女性で約21,579人)および死亡者数(2020年:男性18,880人、女性18,797人)は、年々増加しています。60歳以上が好発年齢ですが、近年若年者の膵臓がん症例が増加しています。膵臓がんの5年生存率は、8.5%と極めて不良です(2009-2011年の症例)。しかし、サバイバー5年生存率(診断されて〇年生存された方がそこから5年生存する率を出したもの)でみますと、診断後3年生存された患者さんのその後の5年生存率は50%を超えています。つまり、診断時に適切な治療を受けることで長期生存する可能性があります。
(図はいずれも国立がん研究センター がん情報サービスより引用)
診断
a. 膵臓がんを発症しやすい因子(危険因子)
膵がん家族歴・家族性膵がん
第一近親者(親子または兄弟)のうち、一対以上(2人以上)に膵がんを発症したことのある家系(すでに遺伝性腫瘍として診断のついている人を除く)の方は、将来膵がんを発症するリスクが通常の人よりも高いことが知られています。
遺伝性リスク
膵がん発症のリスクが高くなる遺伝性腫瘍症候群として、ポイツ・ジェガース症候群(STK11/LKB1)、遺伝性膵炎(PRSS1)、家族性異型多発母斑黒色腫症候群(CDKN2A/p16)、遺伝性乳癌卵巣癌(BRCA1/2)、リンチ症候群(ミスマッチ修復遺伝子MLH1、MSH2、MSH6、PMS2)、家族性大腸腺腫症(APC)が知られてます。
嗜好(喫煙、飲酒)
喫煙および飲酒(1日摂取量エタノール換算で24g~50g以上)されている方の膵がん発症のリスクは、非喫煙者および非飲酒者のそれぞれ1.7~1.8倍および1.1~1.3倍と報告されています。
糖尿病
糖尿病発病後1年未満での膵癌発生リスクが高く、その後経時的にリスクが減少しています。新規発症や急に糖尿病のコントロールが不良になった患者さんは、膵がんがないかの精査を受けることが推奨されます。
肥満
BMI≧30Kg/m2でリスクは1.3~1.4倍になります。
慢性膵炎
慢性膵炎では膵癌リスクが13.3倍~16.2倍と高値で、診断2年以内が特にリスクが高くなります。
膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)
IPMNの嚢胞にはムチンと呼ばれる粘液が貯留しています。嚢胞の壁は、粘液を産生する腫瘍性細胞で覆われています。この腫瘍性細胞の一部が癌化することがあります。また通常型の膵がんを併存する場合もあります。
b. 症状・血液検査
症状
膵がんは特異的な症状に乏しいため、多くが進行がんで診断されます。症状として多いものとして、腹痛、食欲不振、腹部膨満感、黄疸、体重減少、背部痛が挙げられます。膵頭部がんは膵体尾部がんに比べ、黄疸症状を伴うため比較的早期に発見されることがあります。
血液検査
膵がんに特異的項目でははありませんが、血清アミラーゼ、リパーゼ、エラスターゼが膵がんに伴う膵炎により上昇し、発見されることがあります。腫瘍マーカーとして、CA19-9、Span-1、DUPAN-2、CEA、CA50が指標となりますが、進行がんを除くと陽性率は低いです。またLewis血液型陰性例ではCA19-9が産生されないことに注意が必要です(日本人の約10%)。
c. 膵画像異常所見
腹部超音波検査、CT検査などで、腫瘤像、膵管拡張・狭窄、胆管拡張、嚢胞、限局性膵萎縮などが指摘された場合は、膵癌の存在に留意しなければいけません。
検査
上記 診断のa~cで膵がんが疑われた場合には精査を進めていきます。
造影CT・MRI検査
膵がんの検出力は造影CT、MRIいずれも89%と高値であり、肝臓などへの遠隔転移、がん周囲の血管への浸潤やリンパ節転移などを評価します。また、MRCPでは膵がんの膵管や胆管への影響を低侵襲で評価できます。
超音波内視鏡検査(EUS)(+穿刺吸引法(FNA))
膵がんを高感度で検出することができ、穿刺吸引法を行うことで同時に組織診断も可能であるため、術前化学療法を行う場合もしくは非手術で化学療法を行う場合にも有用となります。EUS-FNAの偶発症として主なものは出血と膵炎であり、その頻度は1.72%です。一方、癌細胞の播種のリスクは0.05%と低頻度です。
内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査(ERCP)
病理診断法としてEUS-FNAが広く普及し、診断目的のERCPは減少していますが、膵管の異常所見のみが認められた場合にはERCPを行い、膵液細胞診で悪性疾患の有無の診断を行うことがあります。
審査腹腔鏡
局所進行膵がんにおいて、画像では確診できない腹膜播種や肝転移を疑う場合には、病期診断を目的に審査腹腔鏡検査を行って確認し、組織診や腹水細胞診を追加します。
病期診断
上記、検査の結果より病期診断を行います。

膵臓がんの治療
膵がんの治療は病期に従い以下のように治療を進めていきます。

a. 手術療法(切除可能もしくは切除可能境界)
膵がんは、周囲血管への接触や浸潤の程度で「切除可能」と「切除可能境界」に分けられます。切除可能境界とは、標準手術では癌が遺残する可能性がある状態ですが、血管合併切除で切除が可能となる状態です。
病期が0期の膵臓がんでは、頭部の腫瘍に対してはリンパ節郭清を含めた膵頭十二指腸切除術を、体尾部のがんに対しては脾合併膵体尾部切除術を行います。膵臓の全域に癌がある場合には膵全摘術を行いますが、生活の質(QOL)を著しく低下させるため適応は慎重に決める必要があります。


日本消化器病学会 ホームページより抜粋
(https://www.jsgs.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=18)(一部改)
I期手術可能膵がんに対しては、ゲムシタビンとS-1併用の化学療法を行ったのちに手術を行います。そして、術後にS-1単独もしくはゲムシタビン単剤投与による補助化学療法を行います。
II期・III期切除可能境界膵がんでは、術前に化学療法を行い治療効果を再評価し、治癒切除が可能か否かの検討を行います。
b. 化学療法もしくは化学放射線療法(切除不能)
化学療法の一次治療として、以下の4種が主に行われています。
1)FOLFIRINOX療法(フルオロウラシル・レボホリナート・イリノテカン・オキサリプラチン)
多種類の点滴の抗がん剤を組み合わせた治療です。点滴に2日間かかるため、投与開始して2日後に点滴の針を抜きます。外来で治療を行うために、皮下に中心静脈ポートを埋め込む手術が必要になります。体力が十分にあり、全身状態が良好な方が対象となります。
2)ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法
2種類の点滴の抗がん剤を組み合わせた治療です。週1回の点滴を3週間連続で行い、4週目を休薬、これを1コースとして4週毎に繰り返します。1回の点滴時間は60-90分です。
3)ゲムシタビン単独療法
点滴の抗がん剤治療です。週1回の点滴を3週連続で行い、4週目を休薬、これを1コースとして4週毎に繰り返します。
4)S-1単独療法
飲み薬の抗がん剤治療です。切除不能膵がんにおいて、ゲムシタビン療法単独と同程度の治療効果が示されています。1日2回、4週間の継続内服を行い、2週間休薬、これを1コースとして6週毎に繰り返します。
5)局所進行切除不能膵がんに対する化学放射線療法では、抗がん剤はS-1もしくはゲムシタビン単剤を併用しながら放射線治療を行います。
c. 放射線療法
放射線照射の目的は、進行を遅らせる、痛みなどを緩和するための姑息的治療です。
d. 緩和医療
切除不可能で、薬物療法の効果がなくなった場合は、緩和ケアの対象です。疼痛に対する緩和医療、胆道閉塞に対する胆道ステント挿入、など苦痛をできる限り軽減しQOL(生活の質)を維持することを目的として、緩和ケアが施行されます。
当センターの特徴
各科との綿密な連携に基づいて確定診断を行い、切除可能と判断されれば、根治性と安全性を考慮して、肝胆膵外科高難度技能指導医が責任者として外科的切除を積極的に行っています。その際、患者さんの全身状態やがんの進行度を十分検討して手術法を選択しています。切除不能な場合には、キャンサーボードでの討議に基づいて化学療法や放射線治療を組み合わせた集学的治療を行っています。
特に、腫瘍内科においては薬物療法を積極的に行い、ゲノム医療を含めた最新最良の治療法を提供できるように心がけています。
また、当院では充実した緩和ケアが提供可能であり、疼痛に対する放射線照射や薬剤投与、減黄治療としての胆道ステント留置などの症状緩和ケアを積極的に実施しています。
参考文献
- 膵癌診療ガイドライン2022年版:日本膵臓学会、膵癌診療ガイドライン改訂委員会編、金原出版、2022年
- 膵癌取扱い規約 第7版 増補版:日本膵臓学会編、金原出版、2020年
- 臨床に直結する肝・胆・膵疾患治療のエビデンス:跡見 裕ほか編、文光堂、2007年
- 国立がん研究センター がん情報サービス: URL, https://ganjoho.jp/public/index.html
- 国立がん研究センター東病院ホームページ:URL, https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/recruit/index.html