胃がん

胃癌は部位別がん死亡者数で第3位、罹患者数では第3位で、年間約12万人が胃癌の診断を受け、約4万人が亡くなっています(国立がん研究センターがん統計2020)。喫煙や食塩の摂取量と関連があるとされていますが、発がんの危険因子として最も重要なものはピロリ菌感染です。

ヘリコバクターピロリ菌は1983年に胃に感染する菌として発見され、慢性炎症を惹起することで粘膜萎縮をきたし、がんの発生母地になるとされています。胃癌は日本を含めた東アジアに多く、欧米では比較的少ないのですが、食文化や衛生状態の違いに加え、ピロリ菌感染率の高いことが一因とされています。

症状や特徴

早期の胃癌には自覚症状はありません。がんが進行することで心窩部の痛みや不快感、食欲不振等をきたしますが、特異的な症状ではなく見過ごされることも少なくありません。閉塞による嘔吐や吐血、貧血およびタール便と呼ばれる海苔状の血便に至ってから、発見されることもあります。

胃癌リスク検診(ABC検診)

胃癌の発生リスクを判定するもので、 採血のみで簡単にできる検査です。血清ペプシノーゲン値で粘膜萎縮の有無を、血清ピロリ菌IgG抗体価でピロリ菌感染の有無を評価します。

和泉市では市の補助があり、40歳を対象に実費1000円で実施されています。

診断のための検査

1 胃X線検査(胃透視検査)

胃だけでなく、食道や十二指腸を含めた上部消化管を総合的にスクリーニングできるため、検診でも行われている検査です。
造影剤(バリウム)を飲んでいただき、胃のX線写真を撮影します。立位や臥位、側臥位等、体位変換していただき、造影剤を胃全体に行き渡らせ、腫瘍を描出します。

胃の全体像を描出できるので腫瘍の局在を知る上でも有用です。

2 上部消化管内視鏡検査

胃の内腔を直接観察することができ、診断に必須の検査です。胃の内腔を直接観察することができ、診断に必須の検査です。内視鏡検査時にがんを疑う病変があれば、腫瘍組織の一部を採取する生検検査を行い、病理検査を経て、確定診断となります。また肉眼所見から癌の広がり(範囲)と深さ(深達度)を評価します。

3 腫瘍マーカー

癌細胞より分泌される物質で、血液検査で測定されます。代表的なものは、CEA(carcino-embrionic antigen), CA19-9 (carbohydrate antigen19-9)などです。

必ずしも、すべての胃癌において腫瘍マーカーが陽性となるとは限りません。腫瘍マーカーが上昇している胃癌では、その値で病勢を予測することが可能です。また、手術後の再発スクリーニングや化学療法後の効果を判定する目安にもなります。

4 胸部・腹部造影CT(コンピューター断層撮影法:computed tomography)検査、腹部エコー(超音波)検査

CTで肺や肝臓等への転移やリンパ節への転移がないかを調べます。併せて、腹部エコー検査でも肝転移の有無を調べます。
また、進行癌では周囲への広がりを確認し、手術で取り残すことなく切除できるかを検討します。

胃癌の病期(ステージ分類)について

病期(病気の進み具合)は、深達度、リンパ節転移および血行性転移の有無で決定されます。

深達度(T)

胃壁は層構造を成しており、がんは最内層の粘膜から発生し、進行するとともに深部に広がっていきます。

胃癌の代表的な転移形式は、リンパ節転移(リンパ管に入り、リンパ節に転移する)、血行性転移(血流に乗って他臓器に転移する)、腹膜播種(漿膜を破り腹腔内に散らばるように転移する)の3つです。

リンパ節転移(N)

胃の領域リンパ節は「胃癌取扱い規約」で細かく決められています。
転移リンパ節の個数により、 N1(1-2個), N2(3-6個), N3a(7-15個), N3b(16個以上)に分類されます。

血行性転移(M)、腹膜播種(P)

胃癌が進行すると、血行性に他臓器(肝臓や肺)に転移します。
また癌細胞が腹腔内に散らばるように転移することもあり、腹膜播種と呼ばれます。
血行性転移や腹膜播種をきたしているときは、根治手術の適応はなく全身治療である化学療法がおこなわれます。

治療方法

日本胃癌学会より胃癌治療ガイドラインが刊行され、日常診療で推奨される治療法選択のアルゴリズムが定められています。胃癌治療を担当する施設は、基本的にはこのガイドラインに従って治療方針を決定しています。ガイドラインはいままでに得られた最良のエビデンスに基づいて作成されていますが、あくまで目安であり、個々の患者さんの状態を考慮して最終的な治療方針が決定されます。

内視鏡的切除

早期の胃がん(粘膜癌、T1a)に対しては内視鏡的切除が行われ、一括切除が原則です。従来行われていた内視鏡的粘膜切除(EMR endoscopic mucosal resection)に代わって、高周波ナイフを用いて病変周囲の粘膜を切開し、粘膜下層ごと剥離して病変を切除する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD endoscopic submucosal dissection)が普及しています。しかし、潰瘍(瘢痕)所見を伴う3㎝を超える病変や2㎝を超える未分化型癌に関しては相対適応病変とされ、ESDを行うか慎重に検討しなければなりません。なぜなら、数%の確率でリンパ節転移の危険性があるからです。

外科的切除

治癒を目的とし標準的に施行されてきた胃切除法は、定型手術と呼ばれています。定型手術では腫瘍の辺縁から十分な断端距離が取れるよう切除範囲を決定し、D2リンパ節郭清を行います。

胃全摘
胃を全摘出する術式です。病変が胃の上部に存在し、近位側断端距離を確保できない腫瘍に適応されます。小腸を挙上し、再建します(ルーワイ法. Roux-en Y法)。
病変が胃の上位に限局し、画像診断でリンパ節転移がないと判断される場合には、縮小手術として胃を1/2以上温存する噴門側胃切除を行うことがあります。逆流を防止するため、当科ではダブルトラクト法をおこなっております。
幽門側胃切除
胃のおよそ2/3を切除する術式です。腫瘍が幽門側(胃の出口側)にある際に行われます。胃中部の早期の腫瘍で、遠位側縁が幽門から4㎝以上離れている場合には、縮小手術として幽門保存胃切除を行うことが可能です。

腹腔鏡(補助)下幽門側胃切除

進行度ⅠAおよびⅠBの腫瘍では腹腔鏡を用いた幽門側胃切除を行います。従来の開腹手術と比べ、傷が小さいため、術後の疼痛が軽減されます。また、腸管の機能回復も早く、食事も早期に再開することができ、入院期間が短縮されます。

手術の合併症(ダンピング症候群について)

胃の手術後は、さまざまな合併症が発生することがあります。中でも、ダンピング症候群は胃の容積が小さくなったため、食物を貯めることができなくなり、食物が一度に小腸へ流れ込むため生じます。発汗やめまい、動悸といった食後30分くらいで生じる早期ダンピングと低血糖症状といった食後2時間くらいに生じる晩期ダンピングがあります。対策として、分割食(1回分の食事量を減らし, 間食をはさむ)や糖質や炭水化物を少なめにすることを心掛けていただいております。

当科から患者様へ

癌治療において、手術は根治を目指せる唯一の治療法です。当科では「胃癌治療ガイドライン」に則り、進行度に応じた適切な手術(胃の切除とリンパ節の切除)を行っております。同時に、出血を最小限とし、手術時間を短縮することで患者様の負担を軽減し、合併症ゼロを目指して安全な手術を心がけています。術後管理におきましても回復力強化プログラムERAS(enhanced recovery after surgery)♯を導入し、入院期間の短縮に努めています。

退院後は、病期に応じた術後定期検査(サーベイランス)をかかりつけ医師とがん診療地域連携パスを共有して行っています。普段の様子をかかりつけ医師に診察していただき、必要に応じて定期検査を当院で行うことで、患者様の通院の負担や診察待ち時間を軽減できるよう工夫しております。
早期胃癌に対しましては、低侵襲で整容性にも優れた腹腔鏡手術を積極的に行っております。現行ガイドラインでは、腹腔鏡下胃切除は臨床ステージⅠの胃癌に対して推奨されていますが、進行した癌に対しても安全性と根治性を担保できることを前提として今後積極的に腹腔鏡手術を導入していきたいと考えております。

多くの外科医が盲目的に行ってきた伝統的な周術期管理ではなく、科学的根拠(エビデンス)に基づいた管理を集学的に実行するプログラムです。積極的な疼痛緩和で早期離床を図ること、術前術後の経口摂取を制限しないことを基本とし、術後合併症の減少や入院期間の短縮、医療費の削減に効果があります。

当院ならではの取り組み

当院では外科だけではなく、腫瘍内科や放射線科、薬剤部、ソーシャルワーカー等、部署や職種を超えたメンバーが参加するキャンサーボード(がん治療に関する多職種合同カンファレンス)を毎週開催し、各がん種における治療方針を決定しています。
術後再発リスクの高い局所進行癌やリンパ節転移が著明な進行癌に対しては、腫瘍内科と連携し、術前化学(放射線)療法を積極的に導入しております。また必要に応じて、拡大リンパ節廓清や多臓器合併切除を伴う拡大手術を行い、妥協することなく根治性を追求しております。

根治の望めない転移再発胃癌などに対して化学療法や放射線治療を組み合わせた集学的治療が適応される際は、キャンサーボードにより最適な治療法を検討しています。終末期医療においても、患者様の利益や意思を尊重しつつ、適応のある場合には緩和治療の一環として外科手術介入も積極的に行っております。
個々が専門性を発揮し、診療科の枠を超えたチーム医療を実践することで心身ともに患者様をサポートできると考えています。