卵巣がん

卵巣は、通常3-4cmの大きさで子宮の左右に1対ずつあります。卵巣腫瘍とは卵巣が腫れたもので、わずかに大きくなったものから腹部全体を満たすような巨大なものまであります。卵巣腫瘍が良性か悪性であるか判断するには、手術で採取した腫瘍組織を顕微鏡で調べる必要があります。
卵巣にできる悪性腫瘍は、中高年以降に好発する上皮性卵巣がんと10-20代に見つかる胚細胞性腫瘍に分かれます。前者が大部分を占め、一般的に卵巣がんというと上皮性卵巣がんのことを意味します。卵巣がんは急速に増大するとともに卵巣外にも広がり、骨盤や腹部全体に腹膜播種した進行がんの状態で見つかることもあります。

症状・特徴

はじめは、ほとんど自覚症状がありません。下腹部にしこりが触れる、おなかが張る、トイレが近いなどの症状があって受診することが一般的です。おなかの中にがんが広がる腹膜播種が生じると、腹水が溜まりやすくなります。まれに、卵巣腫瘍が捻転や破裂し突然の激痛が生じることもあります。
卵巣がんの発生には、複数の要因が関与しています。遺伝的要因として、BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子が係っており、日本人では卵巣がんの14%にこれらの遺伝子異常が認められています。卵巣がんに加え、乳がんや前立腺がんの発症リスクを高め、子孫に50%の確率で受け継がれることがわかっています。
卵巣の子宮内膜症は良性の病気ですが、一部は悪性化し卵巣がんになることがあります。出産の経験がない方や初経が早く閉経が遅い方は、排卵の回数が多く卵巣がんになりやすいと考えられています。

診断方法

卵巣がんの検査

内診、超音波検査、CT検査、MRI検査、PET検査、腫瘍マーカー検査を行います。卵巣がんは、画像検査や診察上は良性の卵巣腫瘍との区別が難しいため、病理検査を行うことで診断を確定します。
腫瘍マーカー検査は、治療後の経過観察に併せて行うことがあります。BRCA遺伝子検査は、進行卵巣がんの治療選択に欠かせないものになりました。

検査の種類

1)内診
子宮や卵巣の状態を、腟から指を入れて調べます。

2)経腟超音波検査
腟から超音波をあてると、子宮や卵巣を詳しく調べることができます。

3)CT検査、MRI検査、PET-CT検査
CT検査やMRI検査では、卵巣から離れた場所への転移の有無、腫瘍の広がりや腫瘍の性質や状態などが分かります。PET-CT検査ではブドウ糖の取り込みが活発な組織が分かり、卵巣腫瘍の悪性度や転移部位を精度よく診断することができます。

4)細胞診・組織診(病理検査)
細胞診では、胸水や腹水などにがん細胞が含まれていないかを検査します。
組織診では、手術で採取した組織を検査し、良性・境界悪性・悪性の判定および組織型の判定を行います。
手術前に悪性が疑われた場合には、手術の範囲を決めるために手術中に病理検査を行います(術中迅速病理検査)。

5)腫瘍マーカー検査
卵巣がんの場合、CA125とCA19-9が上昇することが多いです。治療の前後で、腫瘍マーカーの値がどのように変化するのかが重要です。また、再発の早期発見に有効で、画像検査などを組み合わせて判定します。

6)HRD検査
卵巣癌患者に対してコンパニオン診断として相同組換え修復欠損(homologous recombination deficiency:HRD)検査が行われるようになっています。
HRDとは、DNA修復機構の一つである相同組換え修復に異常がある状態のことを表し、卵巣癌を始めとする多くの癌で見られる特徴の一つとされています。
相同組換え修復欠損(HRD)を有する卵巣癌におけるベバシズマブを含む初回化学療法後の維持療法としてオラパリブを考慮する場合、または3つ以上の化学療法歴のある再発卵巣癌の治療としてニラパリブを考慮する場合には、その適応を判断するため、コンパニオン診断としてHRD検査が必要となります。

治療方法

手術(外科治療)

卵巣がんでは、手術によりがんが取りきれたかどうかが予後に影響し、残存する腫瘍の大きさが小さいほど予後がよくなります。初回手術では、可能な限りがんを摘出することが原則です。
標準治療として行われているのは開腹手術です。腹腔鏡下手術は、診断目的で腫瘍生検を行う際に利用することがありますが、現時点では標準治療ではありません。

1)基本的な手術法
両側の卵巣と卵管、子宮、大網を摘出します。

2)腫瘍減量術
腫瘍減量術では、手術で完全には切除できない場合でも、できるだけ多くのがんを摘出することを目指します。残存する腫瘍の大きさが予後に関わるため、転移が大腸、小腸にある場合には、腸管部分切除、腹膜切除、脾臓摘出を行うことがあります。

3)後腹膜リンパ節郭清もしくは生検
病期を決定するために、広い範囲のリンパ節を切除する後腹膜リンパ節郭清、もしくは腫れている一部のリンパ節の生検を行い、リンパ節転移の有無を確認します。

4)手術の合併症について
卵巣がんでは、追加治療として化学療法を行うことが多いので、術後合併症は避けねばなりません。骨盤内膿瘍や術後腸閉塞、尿路系のトラブルは治癒に日数を要するので注意が必要です。
閉経前の方では、両側卵巣を摘出することにより更年期障害が生じます。
リンパ節郭清を行うと、下肢や恥骨周囲にリンパ浮腫が生じることがあります。

●妊娠や出産について
将来子どもをもつことを希望している場合には、妊孕(にんよう)性温存治療(妊娠できる可能性を保つ治療)が可能か、治療開始前に担当医に相談してみましょう。

薬物療法

進行した状態で発見されることが多いため、術後化学療法を行うことがほとんどです。早期に発見された場合でも、がんの種類によっては再発の危険が高いことがあるため、術後に化学療法を行うことがあります。上皮性卵巣がんは、4つの組織型(漿液がん、粘液がん、類内膜がん、明細胞がん)に分けられ、それぞれ異なった性質をもっており、化学療法の効果も組織型によって異なります。

1)化学療法
細胞障害性抗がん剤を用いて、がん細胞を死滅させる治療法です。タキサン製剤とプラチナ製剤の併用療法が基本となります。タキサンの代わりに、ドキシル、ゲムシタビン、イリノテカンを使うこともあります。

(1)TC療法(パクリタキセル+カルボプラチン)
タキサン製剤であるパクリタキセルとプラチナ製剤のカルボプラチンが卵巣がんでは標準治療です。いずれも、点滴で5時間程度の投与を行います。3週間ごとに6コース繰り返すのが一般的です。

(2)化学療法の副作用について
細胞障害性抗がん剤は、がん細胞だけでなく正常な細胞にも影響を及ぼします。一般的に、脱毛、口内炎、便秘、下痢が起こったり、白血球や血小板の数が少なくなったりすることがあります。白血球(好中球)が著しく減少すると、発熱や倦怠感がでて感染しやすくなります。手足のしびれなどの末梢神経障害が高頻度に起こります。その他にも、肝臓や腎臓や肺に障害が出ることがあります。
副作用などで化学療法の継続が困難な場合には、薬剤の変更もしくは治療の中止などを検討します。

2)分子標的治療
がんの増殖や維持に関わっている分子を標的にしてその働きを阻害します。

(1)ベバシズマブ
がん細胞周囲の新しい血管の形成を抑え、腫瘍への栄養を断ち兵糧攻めで腫瘍を痩せ細らせることができます。化学療法と併用、もしくは単独で、3週間ごとに点滴で投与します。主な副作用には、出血、高血圧、タンパク尿、口内炎、キズが治りにくくなる、腸管穿孔などがあります。腸管穿孔の頻度は低いのですが、注意が必要なものです。

(2)PARP阻害薬(オラパリブ、ニラパリブ)
損傷DNAの修復を担う酵素の働きを抑えることにより、DNA修復のできないがん細胞を死滅させます。TC療法が終了した後、維持療法として毎日内服します。主な副作用には、嘔気、嘔吐、貧血、血小板減少、倦怠感があります。

当院ならではの取り組み

卵巣がんは、初回手術で可能な限りがんを摘出することが原則です。進行すると切除範囲が広がり、周辺臓器の合併切除が必要になります。全身状態や組織型を考慮したうえで、経験に裏打ちされた切除範囲の決定が重要になります。当院産婦人科は、日本産婦人科腫瘍学会の指定修練施設(泉州地区では2施設)として多くの産婦人科悪性腫瘍の治療に携わってきました。また、外科や泌尿器科のサポートも万全であり、安心して手術をうけていただけます。
リンパ郭清に伴う下肢リンパ浮腫は、リンパ浮腫外来でスキンケア・用手的リンパ誘導マッサージ・圧迫療法 の指導・実施、弾性ストッキングの指導を行っています。
また、卵巣がんの10-15%にBRCA遺伝子変異があるとされ、「乳がんや卵巣がんになりやすい体質なのではないか」という不安をお持ちの方に、遺伝カウンセリング外来での相談も可能です。