甲状腺は喉仏(甲状軟骨)の下から左右に蝶々のような形の臓器です。(図1)
甲状腺は代謝を活発にするホルモンを作っていますが、通常は甲状腺癌ではホルモン異常はありません。大部分の甲状腺がんは進行が緩徐であり、治療を受ければ生命に関わることが少ない癌です。
首の腫れで気付くことがありますが、最近は、頸動脈エコー(動脈硬化検査)やCT検査で偶然発見されることも多くなっています。画像検査の進歩に伴い、甲状腺癌の患者数は増えています(図2)。

症状・特徴
首(前頸部)がこぶ状に腫れる以外の症状は殆どありません。
甲状腺がんが大きくなると圧迫感を感じることがあります。進行が早い未分化癌では痛みや発熱を伴うことがあります。
進行すると、首のリンパ腺の腫れ(リンパ節転移)、声がれ(反回神経への浸潤)、咳・痰・血痰(気管への浸潤、肺転移)、骨痛(骨転移)などの症状がみられることがあります。
甲状腺がんには、乳頭癌、濾胞癌、髄様癌、未分化癌があり、それぞれ下記の特徴があります。
乳頭癌が最も多く(約90%)、濾胞癌(10%程度)、髄様癌(約1%)、未分化癌(1-2%)です。
1)乳頭癌:甲状腺癌で最も多く、進行は緩徐です。(甲状腺濾胞細胞から発生します)
2)濾胞癌:乳頭癌に次いで多い癌であり、乳頭癌と濾胞癌は甲状腺濾胞細胞から発生し、分化型甲状腺癌と呼ばれます。
3)髄様癌:甲状腺の傍濾胞細胞から発生し、カルシトニンというホルモンを産生します。カルシトニンはカルシウムに影響するホルモンですが、カルシトニン増加による身体の異常や症状はありません。髄様癌の患者さんの約4割が遺伝性であり、遺伝性髄様癌では副腎腫瘍や副甲状腺機能亢進症(高Ca血症)を合併することがあります(多発性内分泌腺腫症2型)。髄様癌と診断された患者さんは遺伝子検査(RET遺伝子)(血液検査)をお勧めします。
4)甲状腺未分化癌:高齢者に多く、非常に進行が早いことが特徴です。疼痛や発熱を伴うことがあります。
診断方法
1 超音波検査(エコー検査)
超音波検査で腫瘍の検出と形態の評価ができます。
癌の甲状腺周囲への浸潤、頸部リンパ節腫大の診断が可能です。

2 超音波ガイド下吸引細胞診
エコー検査を確認し、腫瘍に直接針を刺して細胞を採取する検査です。
細胞診により甲状腺癌は高率に診断できますが、濾胞癌については良性腫瘍との鑑別診断は困難です。
使用する針は採血の時に使用する注射針と同じですので、麻酔をせずに実施します。
エコーで病変部を確認しながら穿刺しますので安全で確実に施行できます。

3 腫瘍マーカー
(1)サイログロブリン:
・ 分化型甲状腺癌の甲状腺全摘後の転移再発のマーカーです。
・ 甲状腺を全摘出していない場合は、癌の特異的なマーカーではありません。
・ サイログロブリンは甲状腺の炎症や壊死でも高値になります。
(2)カルシトニン:
・ 甲状腺髄様癌の腫瘍マーカーです。
・ 甲状腺腫瘍があり、カルシトニンが高い場合は髄様癌が強く疑われます。
・ 髄様癌は甲状腺癌の中でも少ない癌ですので、全ての甲状腺腫瘍の患者さんに測定が必要とは言えません。
・ 髄様癌の治療経過・転移再発の評価にも有用です。
※ 未分化癌の腫瘍マーカーはありませんが、未分化癌では白血球増加、炎症反応増加、カルシウム増加などを認めることがあります。
4 CT、MRI及びPET検査
CTおよびMRI検査では甲状腺腫瘍の有無は診断できますが、良性と悪性の鑑別診断は困難です。 PET検査で甲状腺腫瘍が見つかっても悪性とは診断できません。CT、MRI及びPET(PET-CT)検査は転移再発の診断には有用です。
スクリーニング検査
一般に甲状腺がんは胃がんなどのように健診でスクリーニング検査を行うことは勧められていませんが、甲状腺がんの最初の診断は触診と超音波検査で行います。
甲状腺腫大や機能異常の症状があれば甲状腺機能検査(血液検査)を受けて頂くことが必要です。甲状腺機能検査では併存する甲状腺機能異常やホルモン産生甲状腺腫瘍(機能性良性結節)の診断ができます。
治療方法
甲状腺がんの治療は、それぞれの病型によって異なります。
1 乳頭癌、濾胞癌(分化型甲状腺癌)
治療の第一選択は、手術切除です。病期などにより、片葉(片側)切除又は全摘出手術が行われます。
甲状腺全摘後手術後の転移再発に対しては、アイソトープ治療*が行われます。アイソトープ治療が有効でない場合は、化学療法(分子標的薬**)の適応になります。
*:放射性ヨウ素を内服して転移病巣の治療を行います。治療室に数日入院する必要があります。(尿、便などに放射性物質が含まれるため)
**:分化型甲状腺癌で使用される分子標的薬:ソラフェニブ(ネクサバール)、レンバチニブ(レンビマ)、セルペルカチニブ(レットヴィモ)
但し、セルペルカチニブの適応はRET融合遺伝子陽性例に限る
≪微小乳頭癌≫
大きさ1cm未満の微小乳頭癌でリンパ節転移、遠隔転移がない場合は、超低リスクとして経過観察が勧められています。一部の患者さんでは腫瘍が大きくなり治療(手術)が必要な場合がありますが、大部分は殆ど大きくならず治療の必要はありません。
2 髄様癌
遺伝性髄様癌(RET遺伝子異常あり)では甲状腺全摘出が必要です。
非遺伝性(RET遺伝子異常なし)の患者さんは、病期などにより、片側切除又は全摘出手術が行われます。転移再発では分子標的薬*による治療を行います。
*:髄様癌で使用される分子標的薬:ソラフェニブ(ネクサバール)、レンバチニブ(レンビマ)、バンデタニブ(カプレルサ)、セルペルカチニブ(レットヴィモ)
但し、セルペルカチニブの適応はRET遺伝子変異例に限る
3 未分化癌
手術が可能であれば手術治療を行います。進行が早いため手術が出来ないこと場合も多いです。
手術ができない場合は化学療法(抗がん剤、分子標的薬*)、放射線療法などを行います。
未分化癌に使用される分子標的薬:ソラフェニブ(ネクサバール)、レンバチニブ(レンビマ)
確定診断
濾胞癌以外の甲状腺癌は細胞診等の検査でほぼ診断ができますが、最終診断は手術摘出組織の病理診断により確定されます。
病期診断のための検査
腫瘍の大きさ、浸潤、転移の状態で病期が決まります。病期診断には超音波検査、CT, MRIが有用です。
超音波検査は甲状腺癌の浸潤と頸部リンパ節転移の検出でき、CT, MRIは周囲への浸潤やリンパ節転移、肺転移などの病変の広がりを診断するためには必要な検査です。
アイソトープ検査である甲状腺シンチや腫瘍シンチも有用なことがあります。

当院の取り組み
当院では、内分泌代謝科専門医、甲状腺専門医が様々な画像診断と超音波ガイド下吸引細胞で診断します。特に、細胞診は診断の要ですので、穿刺・細胞採取は医師と超音波検査技師で実施し、病理検査技師が細胞検体の迅速な処理を行っています。細胞診断は甲状腺病理専門の医師が正確に診断致します。CT, MRI, アイソトープ検査を行い、進行度を評価しています。但し、甲状腺結節が見つかる頻度は高く過剰な治療(手術)はお勧めしないようにしています。
耳鼻科又は外科で手術治療を行い、化学療法については腫瘍内科の協力を得て治療を行います。放射線治療(外照射)は当院放射線科で行いますが、放射性ヨード治療(アイソトープ治療)については連携施設の協力を得て行っています。アイソトープ治療以外は当院の専門科が連携して治療、管理します。
手術治療後および微小乳頭癌は内分泌代謝科専門医、甲状腺専門医が定型的に診察を行っています。甲状腺癌手術後の転移、再発の精査、甲状腺ホルモン補充療法、TSH抑制療法や低カルシウム血症(副甲状腺機能低下の場合)の治療も行っています。