患者さま・ご家族さまへ
大腸がんの治療方法の選択については、消化器外科内でのカンファレンスのみならず、消化器内科・肝胆膵内科・病理診断科との合同カンファレンス、さらには腫瘍内科・放射線治療科・緩和ケア科のほか看護師や薬剤師などの医療スタッフも参加するキャンサーボードなどで幾重にも検討を重ねて、個々の患者さまの全身状態やがんの進行度に応じた最適な治療方法を決定します。
手術治療では、がんの根治性のみならず、患者さまへの安全性と低侵襲性についても最大限に考慮しなければなりません。当科では腹腔鏡手術はもちろんのこと、最新の手術方法であるロボット手術も積極的に取り入れて、患者さま・ご家族さまに安心してご満足いただける治療を提供できるように心がけております。
また、治療については日本外科学会・日本消化器外科学会・日本大腸肛門病学会などの各種学会の専門医・指導医の認定を受けた専任医師が責任をもって担当いたします。
下部消化管外科部長
文元雄一

大腸がんについて
大腸がんの頻度
日本では大腸がんは年々増加しており、がん罹患数の順位(2019年)を性別でみると、男性・女性ともに第2位、男女合計では第1位と日本人で最も多いがん種となっています。また、大腸がんの死亡数の順位(2021年)は、男性で第2位、女性で第1位、男女合計では第2位となっており、悪性度も非常に高いことがわかります(国立がん研究センターがん情報サービス)。

大腸がんの症状・診断法・治療法
大腸がんの症状・診断法・治療法についてはこちらをご参照下さい。
大腸がんの手術治療
通常、進行がんやリンパ節転移の可能性がある早期がんに対しては手術治療が選択されます。手術では、がん病巣の部位に沿って大腸を切離し、さらに所属リンパ節の切除(郭清)も行います。そして、大腸を切除するためのアプローチ法には現在、下記に説明する3つの方法があります。がんの進展具合や患者さまの状態を考慮して、適切なアプローチ法を選択します。


手術のアプローチ法
①開腹手術
腹部を15-20cm程度切開して、腹腔内を直接見ながら、組織や臓器を切ったり、縫ったりします。近年では開腹手術の症例はずいぶんと減少しましたが、腫瘍が巨大名症例、周囲の臓器に高度浸潤している症例や過去に手術既往があって広範囲な癒着がある症例では、現在でも開腹手術を選択しています(約10%)。
- ・メリット :
- 術者が患部を直接見て、触った感覚を確認できる。
大きな出血などがあってもすばやく対応できる。
- ・デメリット:
- 創が大きく、身体の負担や手術後の痛みが強い。

②腹腔鏡手術
腹腔内を炭酸ガスでふくらませた状態で、腹部の数カ所の小さな創から腹腔鏡(カメラ)と専用の手術器具を腹腔内に挿入し、モニターを見ながら手術を行う方法です。
- ・メリット :
- 創が小さいため、整容性に優れ、術後の痛みが少ない。
繊細な操作が可能であり、出血量が少ない。
体の負担が少ない手術(低侵襲手術)。
- ・デメリット:
- 手術操作に一定の技術を要する。
臓器に手で直接触れることができない。
手術時間が長くなる。

③ロボット手術
手術支援ロボットは①高解像度の3D画像、②多関節をもった自由に曲がる鉗子、③モーションスケール機能、④手振れ補正機能など、腹腔鏡手術では備えられていない様々な機能を有しています。このため、腹腔鏡手術と比べても、さらに繊細で精密な手術が可能となるため、がんの根治性や排便・排尿・性機能など術後機能温存の向上が期待できます。
- ・メリット :
- 上記①~④
- ・デメリット:
- 触覚がまったく無く、注意が必要。
維持コストが高い。



大腸がんの手術件数
当科での大腸がん手術件数は年々増加傾向にあり、2025年は110件でした。大腸がん手術のアプローチ法については低侵襲手術である腹腔鏡手術が以前は中心となって約90%を占めていました。しかし、2022年8月から直腸がんに対してロボット手術を導入し、さらには2024年10月から結腸癌に対してもロボット手術を導入して手術件数を伸ばし、さらなる低侵襲性を追求しています。2025年の大腸がん手術のアプローチ法はロボット手術が全体の70%を占め、現在では標準術式となっています。


入院から手術・退院まで
結腸がんの場合

直腸がんの場合

ストーマについて
ストーマとは
ストーマ(人工肛門)とは手術操作で腸管を腹腔外に出し、口を開いて皮膚に固定した人工の排泄口のことです。ストーマから排出される便は腹部に装着した専用装具(パウチ)で受け止めます。

ストーマ造設を要する疾患
・低位直腸がん ・肛門がん
・大腸がんによる腸閉塞
・大腸穿孔(がん、憩室炎など)
ストーストーマの種類
・使用する腸管による分類: 小腸ストーマ 結腸ストーマ
・ストーマ期間による分類: 永久ストーマ 一時的ストーマ
・ストーマ形態による分類: 単孔式ストーマ 双孔式ストーマ
理想的なストーマ

ストーマ外来
当院には、ストーマ保有者(オストメイト)をサポートするための専門外来であるストーマ外来があります。ストーマケアや皮膚トラブルなどの合併症への対処法や適切な装具の選択などについてアドバイスしています。月に3回-完全予約制で、ストーマケアについて専門の皮膚・排泄ケア認定看護師(WOCナース)が担当しています。
痔疾について
1.肛門の構造

肛門は排泄を司る器官です。通常は肛門括約筋が緊張し、便やガスが漏れないようになっています。内肛門括約筋は自分の意思と関係なく、直腸に便が送られると弛緩し、排便が促されるのですが、外肛門括約筋は随意筋のため、意識的に肛門を締めたり緩めたりすることができます。血管が網の目状に広がった静脈叢も弾力性に富み、漏便を防ぐ役割があります。便意を催し、トイレでの排便可能な環境が整うと括約筋が弛緩して便やガスが排出されます。この括約筋に締められた4-5cmの管状部分が肛門管です。肛門管(上皮)は歯状線を境に直腸(粘膜)に移行します。歯状線には肛門小窩(陰窩)と呼ばれるくぼみがあり、排便時に粘液を分泌し、スムーズな排便に寄与します。肛門や肛門周辺にできる病気を痔と言います。
2.痔とは
日本人の3人にひとりは痔に悩んでいるとされています。痔のタイプは痔核(いぼ痔)、裂肛(きれ痔)、痔瘻(あな痔)の3つに大別されます。

(ボラギノールホームページより)
(1)痔核
痔疾の半数以上を占めます。2足歩行のため(肛門が心臓より低い位置にあるため)肛門周囲がうっ血しやすいこと(痔核は2足歩行をするヒト特有な疾病です). 排便時のいきみ(和式トイレも痔核の一因と言われています)等で過度の負荷がかかることで肛門静脈叢がうっ血し、こぶ状に腫れた状態です。主原因は便秘や下痢によるいきみの繰り返しであり、生活習慣病のひとつであると言えます。まずは排便習慣の是正と香辛料やアルコール等の刺激物を控えることですが、症状がひどく、保存的治療に奏効しなければ手術となります。


歯状線を境に直腸側にできる内痔核と皮膚側にできる外痔核とに分けられます。通常、内痔核ができ、大きくなり、外痔核を合併します。基本的に内痔核には痛みを伴いません。痛みがある際は・外痔まで広がった内外痔核・血栓(血液の固まったもの)・嵌頓(脱出し、環納できなくなった状態. 括約筋に締められ血流障害を来します)等が考えられます。内痔核の愁訴は排便時の出血や脱出, 外痔核の愁訴は排便時の痛みです。内痔核は脱出の程度により、上記の如く分類されます。患者さんの症状や病脳期間等を踏まえて手術すべきかを決定します。
(2)裂肛
硬い便により肛門上皮が裂けた状態です。強い排便時痛を伴います。急性裂肛では緩下剤での排便コントロールを行いますが、慢性化し、潰瘍化したり、瘢痕による狭窄をきたした際は手術加療を要します。

(3)痔瘻
肛門小窩からの細菌感染が原因です。下痢やアルコール摂取が原因とされています。原発口(感染した肛門小窩)より瘻管を通じて膿たまり(肛門周囲膿瘍)を形成します。感染が原因ですので強い痛みを伴います。排膿することで痛みは和らぎますが、瘻管が遺残していると再発することが多く、根本的には手術加療が必要です。瘻管の広がりや深さにより 皮下・粘膜下痔瘻 内外括約筋間痔瘻 深部痔瘻(坐骨直腸窩痔瘻・骨盤直腸窩痔瘻)に分類されます。長期間痔瘻を放置すると慢性的な炎症により、希にがん化(痔瘻がん)することがあります。

3.手術
(1)痔核
①結紮切除
粘膜を電気メスで切開しながら、痔核をはがしていき、最後に痔核の根元で血管を糸で縛った後に、痔核を切除します。吸収糸という溶ける糸を使うため、術後に抜糸の必要はありません。創部は(部分的に)開放創とします。肛門は便の通り道であるため、傷口を縫い合わせてしまうと、縫い目から便が入り込み、化膿してしまうことがあるからです。内痔核は3カ所できることが多いです(3時 7時 11時方向にできることが多いです)。場合によって創部が3カ所となります。術後は患部を清潔に保っていただく必要があります。数週間で創部は閉鎖されます。

②硬化療法(四段階注射法)
中国の消痔霊という薬液を改良したものです。ALTA(アルミニウムカリウムとタンニン酸)という薬液を痔核に注射することで炎症を惹起させ、組織の修復瘢痕を促し、内痔核を消退させます。通常、1つの内痔核に対して4カ所注射するため、四段階注射法とも呼ばれます、内痔核の大きさにより薬液量を調整します。

硬化療法の適応は内痔核です。出血を繰り返す内痔核がいい適応になります。外痔核や血栓化した痔核、嵌頓痔核には硬化療法の適応はありません。結紮切除と組み合わせた治療を行います。
(2)裂肛
慢性化・潰瘍化した裂肛を切除し、瘢痕肥厚した組織を削ることで直りやすい創にします。すぐ外側の皮膚を移動して創部を縫合します(皮膚弁移動術)裂肛の患者さんは肛門の緊張が強くなっているため、必要に応じて内肛門括約筋を一部切開します(皮下内肛門括約筋切開)。
(3)痔瘻
原発口(感染した陰窩)と瘻管を切除する必要があります。瘻管の深さや広がりにより、大きく以下の3通りの方法を使い分けます。
①切開開放術(lay open法.レイオープン法)
瘻管に沿って切開、開放します。感染した組織を切除し、治りやすい創にします(開放創とします)。括約筋ごと切開してしまうため、瘻管が括約筋に深く及んでいる際はくり抜き法やシートン法とします。

②括約筋温存手術くり抜き法(coring out法. コアリングアウト法)、シートン法
括約筋温存手術くり抜き法(coring out法. コアリングアウト法)、シートン法があります。括約筋の切開を極力最小限とするため、瘻管をくり抜くように切除します。原発口を縫合閉鎖する方法とゴム輪を通すシートン法とがあります。

・くり抜き法
原発口は縫合しますが、便の通り道になるため離解することも多く, 再発の多い術式ではあります。

・シートン法
瘻管が深く複雑化している際は弾力性のあるゴムひもを瘻管に沿って通します。数日おきにゴムひもを締め直すことで少しずつ括約筋を切開するため、括約筋の損傷を最小限にすることできます。

切開開放術が最も根治性の高い手術法ですが, 括約筋ごと切開するため術後に後遺症(肛門の変形や漏便)をきたす恐れがあります。シートン法はゴム輪で少しずつ数ヶ月かけて括約筋を切開するため, 括約筋の損傷を最小限とすることができ, 術後の後遺症を回避できます. その分治療に数ヶ月を要しますが, 根治性を保ちつつ, 肛門機能を温存する手術となります。
チーム医療について
当院での大腸がん治療は、大腸がん診療ガイドライン(大腸癌研究会 2022年度版)の方針に沿って行うことを基本としています。大腸がんの進行度や患者さまの全身状態を考慮し、多角的に検討を重ねた上で最適な治療法を選択して、専門的な診療科(消化器外科・消化器内科・腫瘍内科・放射線治療科・緩和ケア科など)が治療を担当することになります。切除可能な大腸がん症例では、当科が責任をもって手術治療に当たらせていただきますが、決して独りよがりにはならず、患者さまの合併症のことなど必要に応じて速やかに他科にも相談できるのが当院の強みでもあります。切除不能な進行再発大腸がん症例においても、腫瘍内科や放射線治療科などと連携して集学的治療を行うことで根治切除が可能になることも決してめずらしくはありません。さらには、疾患治療にとどまらず、身体面の他、心理面・社会的側面も含めた全人的治療を目指すため、専門的な知識や技術をもつ多種多様な医療スタッフ(看護師、薬剤師、管理栄養士、社会福祉士、理学療法士、公認心理師など)が情報を共有し、業務を分担しつつ互いに円滑に連携することで、患者さまの生活の質を落とすことなく、最適のチーム医療を提供できる体制を整えています。

地域医療連携について
当院は地域医療の中核を担う病院として、大阪府知事より地域医療支援病院の承認を受けております。当院の地域連携センターを窓口にして地域の開業医や病院の先生方と密接に連携し、救急医療や専門的な治療を要する患者さまを要請に応じて速やかに受け入れて十分な医療を提供できるように努めています。さらに、がん診療における地域医療連携の一環として、がん地域連携パスを運用しております。がん診療連携拠点病院である当院と地域のかかりつけ医の先生方が患者情報の交換・共有をしつつ、役割分担しながら協力することで、患者さまに安心で質の高い医療を提供することを目的としています。当院で大腸がんの手術を受けられた患者さまにも退院後、このがん地域連携パスを積極的に活用して、かかりつけ医の先生方と協力しながら、がんの再発チェックも含めてしっかりと外来でフォローさせていただいております。
